俺と一緒に生きてくれると言った人。
俺は貴方に何が返せるだろう。
何でもいい。
何か返さなければいけない。
俺は貴方のために何が出来るだろう?
そんなことを考えながら俺は意識を失った。
「……ん。あ、れ?……アスラン?」
「目が覚めた?お前、倒れたんだぞ。大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ。ちょっと疲れてるだけだから」
「……みんなお前が心配なんだよ」
二人の会話を俺は黙って聞いている。
意識を取り戻した俺の視界に最初に入ってきたのは、どこかの部屋の天井だった。
少しの間ぼんやりとしていたら話し声が聞こえてきた。
どうやら俺が意識を取り戻したことに二人とも気付いていないようだった。
そういえば、この二人の関係を俺は詳しくは知らない。
今聞いている会話からわかることを考えてみる。
アスランさんはキラさんが大事なんだということ。
そしてキラさんもアスランさんが大事だということ。
少なくともそれだけはわかる。
……俺の大事なものって何だろう?
探せば探すほどわからない。
俺の中はまるで空っぽだ。
俺は何で生きているんだろう?
俺は何でここにいるんだろう?
『何で』がぐるぐると回る。
答えを探そうとしているのにみつかる気配はこれっぽっちも無い。
……あぁ、やはり俺はいなくなるべきだったのだろうか。
差し伸べられた手に答えてはいけなかったのだろうか。
「……っ」
痛い。
頭が、体中が、全部痛い。
「レイ君?気がついたんだね……どうしたの?どこか痛いの?」
「俺は、無い」
「何が無いの?」
「何も。空っぽなんです。何のために生きているか、理由すら無い」
そう言った途端、キラさんは今まで横になっていたベッドから抜け出して俺に近付く。
そしてキラさんは俺の手を握って微笑んだ。
「君は君のために生きているんだよ。誰のためでもない君自身のために。考え方を変えてみたら?君は何でも難しく考えすぎだよ」
「理由が無くたって誰も君が生きることを否定なんてしない。理由を探すために生きている人だっているんだよ」
そんな風に考えたこと無かった。
俺が考えもつかないような答えをキラさんがくれた。
「貴方には生きる理由……あるんですか?」
理由が無ければ、こんな風にいられないんじゃないかと思った。
こんなに穏やかで優しい、けれど強さも感じられる。そんな雰囲気を感じさせるのはきっと何か理由があるからだと思った。
「どうかな。僕も探している最中なのかもしれない」
「探している、最中?」
「うん。まだ途中なんだと思う。……前はね、罪滅ぼしのつもりだった……のかもしれない。僕は戦争とは言え、たくさんの人の未来を奪ってしまった。だからその人達の分まで生きようって思ってた。だけど最近思うんだ。それは違うんじゃないかって。なんでも戦争のせいにするのはずるいんじゃないかってね」
握られていた手に力がこめられた。
そして、俺の手を握っている手は少し震えていた。
「本当は違う理由があると思うんだ。それが何かはまだわからないけど、きっといつかわかるときが来ると思う」
「僕にも君にも必ず理由はあるはずだよ」
キラさんが何を経験して、そこから何を思ったのか。
全てを把握するのは難しい。むしろ俺にはわからないことだらけだ。
キラさんが途中だというのなら俺はまだスタートラインにすら立っていないのかもしれない。
俺に今必要なのは一歩踏み出す勇気。
「だからお願い。何も無いなんて……空っぽだなんて言わないで」
泣くのを必死で我慢しているような、そんな表情。
どうして自分のことではないのにそんなに感情を露にするんですか?
貴方は俺ではないのに。どうして。
「……ねぇ、レイくん。一緒に探そうよ。たとえ僕たち互いの答えが違ったとしても、途中までなら一緒に歩けるよ」
本当は一歩踏み出す勇気なんて持っていた。
それに気付かない振りをしていただけ。気付きたくなかっただけ。
キラさんの手を握り返す。
暖かい陽だまりの様なこの人となら、いいかもしれない。
一緒に歩きたいと思ってしまう。
ここから二人で歩き出す。
一歩一歩しっかりと踏みしめながら。
-end.
後書き。
アスランの存在はいつの間にか無視されています。
というかアスランは部屋を出て行ったんです。アスランもいろいろとやることたくさんあるので忙しいのです。
久しぶりのレイキラお題更新。
なかなか進まないです。
2006/ 6/29