「あすらーん、どこー?」
ヴェサリウス内で大きな声を出しながら走り回っている子供。
こんな子供がここにいること自体がおかしいのに、すれ違うものは皆普段通りにしている。


――そして穏やかな目でその子供を見ている。



「ねぇ、あすらーん。どこいっちゃったのー?」
「どうしたんだ?キラ。珍しいな、今日は一人か」
ディアッカがキラと呼ばれた子供に声をかける。そして、しゃがんでキラと目線を合わせる。
「でぃあっか!ねぇねぇ、あすらんしらない?」
「んー俺にはわかんないな…どうしたんだ?」
「あのね…おきたらね、あすらんがいなかったの」
そう言う紫水晶のような綺麗な瞳には涙が浮かんでいた。
「あぁ、もう。泣くなよー。大丈夫だよ、キラ。アスランはお前のこと置いてどっかに行ったりしないから」
「…ほんとう?」
「あぁ、本当さ。一緒にアスラン探すか?」
「うん!」
ディアッカと手をつなぎながら歩くキラは、さっきまでの泣きそうな顔が嘘だったかのような満面の笑顔だった。



「ディアッカ、貴様何をしている?」
「アスラン探し。キラと一緒にな」
「……アスランなら先程ニコルと一緒にいるのを見たが」
「本当か!?サンキュな、イザーク。よし、キラ行くぞ」
「うん。あ、いざーくありがとー。ばいばーい」
イザークにお礼を言って手を振るキラを横目で見つつ、イザークはディアッカに一言言う。
「泣かすなよ…」
「はいはい、わかってますよ」
そう言って歩く二人を見ながら微笑むイザーク。
イザークはキラがヴェサリウスに来てから昔では考えられないほど穏やかになった。キラのおかげでよく笑うようになった。
「…礼には及ばないさ、このくらい」



「って、そのニコルはどこにいるんだよ…。聞くの忘れてたよ」
「でぃあっかー。にこるはどこー?」
「うん、そうだよなぁ…どこにいるんだろうなー?」
「でぃあっか、まいご?」
「……いや。どうなんだろうな、こういう場合は」
苦笑いをするディアッカ。本当にニコルがどこにいるのかわからない。
とすると、必然的にニコルと一緒にいるというアスランもどこにいるかわからない。
「あ!」
「どうした?キラ」
「にこるだー!」
そう言って急に走り出すキラ。それにつられてディアッカも走っていく。



「にこるー」
「あ、キラ君。どうしたんですか?」
「あのね、あのね…あすらん、どこにいるかしってる?」
走ってきたために息切れしているキラはゆっくりと言った。
その後ろには少し困ったような表情のディアッカ。
「キラが起きたらアスランがいなかったらしくてさ。それで、さっきイザークがニコルとアスランが一緒にいたのを見たって言うから、お前を探してたってわけ」
「あぁ、そういうことですか…アスランでしたらさっき自分の部屋に戻っていきましたよ」
「ほんと?それほんと?にこる」
「えぇ。今頃アスランが逆にキラ君を探してるんじゃないですか?」
クスクス笑ってそう言うニコル。
やっと探していたアスランの居場所がわかってキラも笑顔になる。
「じゃ、早く部屋に戻らなくちゃなー」
「うん!」
「それでは僕は少し用事があるのでこれで」
「あ!にこるはあすらんに『おめ』ってつくことばいった?」
「…? いいえ、言ってませんよ」
「そっか。よかったー。にこる、おしえてくれてありがとー」
「いいえ、どういたしまして」
笑顔で去るニコルに手を振るキラ。


「『おめ』のつく言葉…?…あぁ、そういえば今日は…」
そこまで言うとニコルはまたクスクスと笑った。



「よかったなー。アスランがどこにいるかわかって」
「うん。でぃあっかもいっしょにさがしてくれてありがとう」
手をつないで歩くディアッカを見上げながらキラはお礼を言う。
「気にすんなよ。…と、お迎えだぞ、キラ」
そう言われてキラがディアッカの見ている方向を見ると…アスランがいた。

「あすらんだ!あすらーん」
「キラッ!どこ行ってたんだ…心配したんだぞ」
そう言うアスランはひどく焦った様子だった。どうやらアスランもキラを探し回っていたようだ。
「キラもお前を探してたんだよ、ほら」
つないでいた手を離して、キラをだっこしてアスランに渡す。
「すまないな、迷惑をかけた。ありがとう、ディアッカ」
「いいんだよ、別に。じゃーな、キラ、アスラン」
「でぃあっかありがとー!ばいばーい」
手を振るキラにディアッカも笑いながら手を振り去っていく。




「本っ当に心配したんだからな、キラ」
「ごめんなさい…でも、きらだってあすらんいなくてしんぱいしたんだよ?」
アスランにだっこされたまま部屋に帰るキラ。

「ちょっと急に用事が出来ちゃってさ。ごめんな、キラ」
「ううん、いいの。あすらんとあえたから。それでねっ!」
「ん…何?キラ」
「おめでとう、あすらん」
「……え?」

「おたんじょうびおめでとう、あすらん」
何のことだかわかっていないアスランにもう一度言うキラはとても嬉しそうで。
「きら、きょういちばんにあすらんにいいたかったの。おめでとうって」
「キラ……。ありがとう。すごく嬉しいよ」
本当に嬉しそうなアスランにキラも嬉しくなって、ぎゅーっと抱きついて笑う。
「ほんとー?うれしい?」
「本当だよ。誕生日がこんなに嬉しいのは初めてかもな」
「きらもうれしいー」
二人で笑いあう。そんな幸せなひととき。





寝てしまったキラの髪の毛を撫でながら、優しいまなざしでキラをみつめるアスラン。
「普段だったら眠っている時間だもんな」
そう。今はいつもだったらキラは寝ているはずの時間。
だから、部屋に戻った時にキラがいなくてすごく驚いたと同時に心配だった。
「俺におめでとうって言うためだけに探し回ってくれてたとはな…」
クスクス笑ってぽつりと言う。
「…嬉しい。すごく嬉しいよ、キラ。ありがとな」
眠っているキラの額にひとつキスをする。


「キラの誕生日にはおめでとうを俺が一番に言うからね。楽しみにしてて」
そう言うアスランの表情はとてもおだやかなものだった。


-end.



後書き。
初書きちったいたん。キラの発言は全部ひらがなで少々読みにくいですね…
でも可愛いってことで許してやってください。そういうことにしておいてください。
微妙にディアキラっぽいけど、アスキラです。

10月29日はアスランの誕生日ということで、おめでとう!アスラン。
これから種デスでどんな活躍してくれるんでしょうね〜。
アスキラ見たいvv頑張れアスラン!!

2004/10/29

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