たったひとつの



「ねえ、イザーク。だっこして」
すごい勢いで俺の部屋に入って来た突然の訪問者は俺を見るなりそう言った。




「……キラ、何だ?」
とりあえず、よくわからないので聞き返してみる。
「だーかーらー、だっこ」
「だっこって……ガキじゃあるまいし」
キラはたまに変なことを言いだしたりする。
そして俺は、毎回対処に困りつつも結局付き合っている。

「んー…じゃあ、ぎゅーってして?」
可愛く首をかしげながら言うキラ。
無意識にこんな仕草をするから危ない。もし、他のヤツの前でこんなことをしていたら…と思うと気が気でない。
「抱きしめて欲しいのか?」
「うん。ぎゅーって抱きしめてよ、イザーク」
両手を前に出して「早く早く」と言ってせかすから、望みどおり強く抱きしめてやる。
「急にどうしたんだ?」
「別にどうもしないんだけど、なんだか急にイザークにぎゅーってして欲しくなったんだ」
にこにこと嬉しそうに笑いながら言われると、こっちまで嬉しくなってくる。
ただ抱きしめてやっただけでここまで喜んでもらえるとは思わなかった。だがキラが嬉しそうだからこれからもたくさん抱きしめてやろうなどと考えていたら、腕の中でおとなしくしていたキラがもぞもぞと動いているのが見えた。
気になったので名前を呼んでみた。

「キラ?」
「ねえ、イザークは今から暇だったりする?」
「一応仕事は片付けたから暇だな」
「じゃ、僕と一緒に昼寝しようよ」
「…昼寝?」
「うん。僕さ、昨日忙しくてほとんど寝てないから眠くて。さっきからずっと我慢してたんだけど、やっぱり駄目みたい」
苦笑しながら申し訳なさそうに言うキラを見つつ、気付かれない程度にため息をつく。
そういえば昨日はずっとキラの姿を見ていなかった。多分いろいろ自分でやらなくてもいいことまで手伝ったりしていたために、寝る暇さえ無かったのだろう。
キラはそういうヤツだ。

「ちゃんと睡眠くらいはとれ」
うー…ごめん。でもさ、そういうイザークだってちゃんと寝てないんじゃないの?」
「お前よりは寝てる」
「そうかなー?怪しいよねー」
確かに俺も『隊長』というだけあって仕事が多い。
でも、キラの仕事量だって同じくらいあるはずだ。…もしかしたら俺より多いかもしれない。
周りがキラを頼り過ぎというのもあるだろうけど、頼まれたことを断れないキラにも多少原因があるのだと思う。

「まぁ、いい。…キラ、お前はどのくらい時間に余裕があるんだ?」
「んーそうだなぁ…半日くらいはある、かな?昨日頑張っちゃったし」
「そうか。だったら半日寝る。どうせ仕事以外に用事なんて無いんだろう?」
「うん。別に用事は無いと思うよ」
キラがそう言ったと同時に抱きしめていた腕をキラから離す。そして次の行動をする。
「え…うゎ。な、何!?どうしちゃったの?イザーク」
「さっき言ってただろう?『だっこ』して欲しいって」
「あぁ、うん。でも、これってかついでるって言うよね…僕はお姫様だっこがいいなー
最後の一言は小さな声で恥ずかしそうに言うキラ。

そんなキラが可愛くて、つい甘やかしてしまう。
「これでいいのか?」
「うん!ありがとう、イザーク。すっごく嬉しい」
そう言うと同時に頬にキスをされた。
「…喜んでもらえて光栄です、わがまま姫」
手にひとつキスをして耳もとで囁く。
言った途端にキラは頬を赤く染めていく。よく見たら耳まで赤くなっている。
「もうっ!何だよ、わがまま姫って…」
「違うのか?じゃあ、甘えんぼ姫か?」
「〜っ…僕は男だから姫じゃないもん」
これ以上言うと本気で怒り出しそうなのでこの辺にしておく。
笑ったり、怒ったり、泣いたりで忙しいんだ。俺の可愛い『姫』は。

「ほら、もうベッドだ」
「ありがとう……ふぁ。イザークが変なこと言うから無駄に体力使って疲れちゃったよ」
「それは悪かったな」
もう寝る体勢に入ったキラを優しく抱きしめてやる。
「本っ当に変なことばっかり言うんだから……じゃ、もう寝るよー」
「あぁ。おやすみ、キラ…ゆっくり休めよ」
「うん、おやすみ。イザークもちゃんと休んでね」



少ししてからキラの寝息が聞こえてきた。
俺の腕の中で静かに眠るキラの顔はとても安らかで幸せそうだった。

もう相当眠くなってきたし、キラにちゃんと休んでねと言われてしまったので俺も寝ようとしたら、部屋に誰かが入ってきたような気配がした。
相手するのも面倒だから、そのまま気にせず俺は眠りについた。




「イザークいないのかー?……と、ここか」
イザークの部屋に入って来たのはディアッカだった。
ちょっとした用事があったので訪ねたのだが、ベッドで仲良く眠る二人を見てしまったために言おうと思っていたことなど、どうでもよくなってしまった。
「隊長は姫とお昼寝中…か。しょうがない、また後で来るか…」
とても穏やかに眠る二人の邪魔をしては悪いと静かに部屋から出て行くディアッカ。


幸せそうに眠る二人を見て、何故か自分まで幸せになってしまった。
「…あんな寝顔見せられたら誰でも幸せになるよなぁ」


-end.



後書き。
種デス設定イザキラ。といってもかなりいろいろ捏造(笑)
白服イザが素敵過ぎてこんな感じの駄文が出来ました。
隊長と姫はラブラブなのです★




2004/11/20