君が涙を教えてくれた



始めて会ったときから綺麗だと思っていた。
僕には眩し過ぎるくらいの綺麗さ。……僕にはもったいない。

だから、触れてはいけないと自分に言い聞かせた。
僕のせいであの綺麗なものを汚してはならない。

だけど、そんな僕の意思とは無関係にあっちから近付いてきた。



――それが、始まりの始まり。



「……キラ?」
声を発すことも、きっと良くない。
そう思って口を閉ざしたまま、合いそうになってしまった視線も慌てて逸らす。
……それなのに。

「話せないわけじゃないだろう?」
言いながら今逸らしたばかりの視線を無理矢理合わせようとしてくる。
触れられるなんて絶対あってはならない。でも、このままだと触れられてしまう。
だから、逃げた。
自分一人になれる場所へ。
やっぱりここから出るんじゃなかった。
ここは僕だけの場所。誰もこんなところまで来ない。
ここだけが僕の存在が許される場所。
最初は嫌だったけど慣れてしまえばさほど気にならない。
……血の雨を降らせることしか出来ない僕にはお似合いの場所だ。


閉じこもることがいいだなんて思ってない。
ここに閉じこもったって何も解決しないことだってわかってる。
だけど、僕には結局閉じこもるしか出来ない。

なんて弱い。
なんてズルイ。

それでも僕はもう誰とも関わりあいたくない。
僕が関われば、きっと良くないことが起きる。
……もうそんなの嫌だよ。僕のせいで誰かを失うのはもうたくさんだ。
僕は一人のままでいい。
このまま誰にも知られずに消えていってしまうのが一番。


もう、疲れてしまった。
永遠に覚めることの無い眠りについてしまいたい。


……確かにそう思っていたはずなのに。


優しく温かいものに包まれるのを感じて、瞳をゆっくりと開けた。
突然、視界に入ってきた眩しさに驚いた。

「もう逃げるな。……何もしないから」

たった一言。
言いながら困ったように僕を見てくる人。
僕を抱きしめている腕からなんとかして抜け出そうと足掻くけれど、ちっとも動けない。
閉じ込められている、そんな感覚だった。

「俺が怖いか?それとも嫌いか?」

左右に首を振る。
違う。貴方が怖いわけでも、嫌いなわけでもない。

「……俺が憎いか?」
「ちが……!」

封じ込めていたはずの声が出てしまった。
駄目だ。これ以上この人に関わってはいけない。
あれほど自分に言い聞かせたのに、どうして。


「やっと声が聞けた」

どうして、そんなに優しく微笑んでくれるの?

縋りたいと思ってしまう。
全てを話してしまいたいと思ってしまう。

「キラ?」

――貴方に縋って泣いてしまいたいと思ってしまうじゃないか。


「まったく……泣くのを我慢するなんて辛いだろう?押し殺す必要も無い。思う存分泣けばいい」

そんなに甘やかされたら、もう戻れなくなってしまう。

いつからだったっけ?
泣くことを無理矢理我慢しだしたのは。ずっと涙を忘れてしまっていた。
何かを我慢するたびに、感情が抜け落ちていくのをなんとなく感じていた。


今、貴方がひとつ教えてくれた。そして僕はひとつ取り戻す。


凍てついた心が少しずつ静かに溶け出したのを、感じながら意識が遠のいていった。


「おやすみ、キラ。……いい夢を」


こんなに心地良い声に身を任せたまま眠れるなんて夢のようだと思った。
その思いとは裏腹に夢であって欲しくないと、望む自分がなんだか嬉しかった。


-end.



後書き。
中途半端に灰色なイザキラになってしまいました。時期的にもよくわからない感じですね……。
まだあまり…というかほとんどお互いのことよくわかってません。どっちかというとイザーク&キラって感じです。




2006/ 2/ 5
← back





template : A Moveable Feast