雨が降るとキラの様子がどこかいつもと違う。
いつも以上にぼんやりとしていて口数も少なく、ずっとどこか遠くを見ていたりする。
声をかけても気付かないこともある。
きっとキラにとって雨というのは俺とは違う認識があるのだろう。
……何か哀しい思い出があるのかもしれない。
だから多くは問わない。
でもひとつだけ教えてくれないか?
『君の瞳には一体何が映っているの?』と。
「え。何って……いろいろだよ」
そんな答えになっているようで、答えになっていないような返答。
雨が降り続ける中、二人で一つの傘をさして歩く。
こんな日はわざわざ外に出たいだなんて俺は思わないけれど、キラが外に出たいと言うから俺たちは目的も無くただ歩いている。
片手には傘。片手には暖かいキラの手。
「キラ、そろそろ戻らないか?」
「…うん。戻ろうか」
雨の日は自然と会話が少なくなってしまう。
キラは俺が話しかけないと滅多に自分からは話そうとしない。
俺が話しかけたとしても、キラからは一言二言の返事しか返ってこないことが多い。
キラと一緒に暮らし始めた頃は、なんとかいつも通りのキラに戻って欲しくていろいろやってみた。
でも、悔しいことに俺にはどうすることも出来なかった。
最初の頃は何も話そうとしないキラにどう接していいかわからなくて、怒鳴ってしまったこともあった。
「どうして一人で抱え込むんだ!?」と。
そんな俺にキラは言った。
「これは僕のモノだから。アスランに背負うことは出来ないモノだよ」
哀しげに微笑みながらそういうキラに俺はどうすればいいかわからなくなってしまった。
あんな表情じゃなかったら、もっと追求していたかもしれない。
……だけど、俺は見てしまったから。
最近は少しずつではあるけれど、話してくれるようになったから今はそれでいいんだと思う。
ゆっくりと時間をかけながらでいいんだ。時間はいくらでもあるのだから。
毎日雨が降り続くということはあまり無いことだ。
今日が雨でも明日は晴れるかもしれない。
今は雨が降り続いているけれど、もう少ししたら晴れて虹が見れるかもしれない。
雨上がりの空にかかる虹を見て君は微笑んでくれるだろうか?
…そして俺に微笑みかけてくれるだろうか?
「キラ、忘れないで?」
「え」
「俺はキラが幸せならそれでいい。俺の幸せはキラの幸せだよ」
「……」
「だから、いつかキラの気が向いた時にでも話してほしい。俺にだって少しは背負えるかもしれないから」
キラは俺に背負うことは出来ないと言っていたけれど、そんなことやってみなくければわからない。
俺はただ、キラの重荷を少しでも減らせればいいと思うだけなんだ。
「少しずつでいいから、いつか俺にも話して」
「……いつか。気が向いたら、ね」
そう小さな声で言ったキラの微笑みは、あの時に見せた哀しげな微笑みではなかった。
それだけで一歩前進できたような気がした。
二人で歩いてきた道を戻る。キラと手をつないで歩調を合わせる。
「キラ、帰ったら何がしたい?」
「……眠いから寝たい」
目をこすりながら言うキラに自然と顔が綻ぶ。
子供のような仕草をするキラが愛しくてたまらない。
「じゃ、一緒に寝ようか?」
「どうして?」
「キラは寂しがりやだから」
会話が続くことがこんなに嬉しいと感じられるのはきっと雨の日だけ。
雨の日だからこその小さな幸せを俺はたくさん知っている。
会話をいつも以上に大事だと感じられるのと同時に楽しいと感じる。
雨の日のキラは抱きしめて眠っても文句を言わないし、時には「抱きしめて」と嬉しいことを言ってくれることもある。
他にもたくさん知っている。
雨の日をキラと過ごすようになって、だんだんと発見している小さな幸せ。
その小さな幸せを探すのが雨の日の楽しみでもある。
「アスランだって……」
そう言うとキラはつないでいた手を離して走り出してしまった。
「おい、キラ!濡れるから戻って来い!!」
大きな声で叫んだけれどキラは振り向くことなく走って行く。
それをすぐに俺も追いかける。前に走って行くキラを少しずつ距離が近付いていく。
キラが家のドアに手をかけた瞬間、俺はキラの手をつかんだ。
「まったく……濡れちゃってるじゃないか、お前も俺も」
「…たまにはいいでしょ」
家に入ってタオルを探す俺と、玄関で立ち尽くすキラ。
「キラ、そんなとこに突っ立ってないで早くこっちにおいで。そのままじゃ風邪ひいちゃうから」
「……うん」
おとなしく俺に近寄ってくるキラを両手を広げて笑顔で迎えてあげる。
タオルで頭を優しく拭いてあげていると、キラが小さな声でぽつりと言った。
「ごめんね……ありがとう、アスラン」
「いいんだよ、キラ。だから笑って?」
俺をその瞳に映して?
そして最高の笑顔を見せて?
それだけで俺は幸せなのだから。
-end.
後書き。
携帯サイトのキリリク。アスキラで雨降りの話とのリクでした。
最後の方はなんだかリクにそっていないような気がします……。
このssは何回も書き直しました。無駄にエロくなったり、暗くなったりして大変でした。
2005/ 6/12