君と微笑おう



「キラ、調子はど……はぁ。やられた」
少し目を離したすきにベッドで眠っていたはずのキラがいなくなってしまった。
「また抜け出して…迎えに行かないと」
キラは俺が目を離すとすぐにベッドから抜け出してしまう。
そして、キラは体力があまり無いから俺が迎えに行ってやらないといけない。

終戦直後からキラはずっと調子を崩していて、一日のほとんどをベッドで過ごす日もある。
ゆっくりと時間をかけながらだけれど、だんだん調子は良くなってきている。
調子が良くなるとともにキラは俺の目を盗んでは家から抜け出すことが多くなった。
一日中ベッドで過ごすのは退屈過ぎる、というのが理由らしい。
最初の頃はひどく焦ってキラを探していてけれど、最近は慣れてしまったせいか心配していることに変わりはないけれど、最初の頃ほどは慌てなくなった。

――キラの行くところはいつも一緒だから。

キラのお気に入りの場所、なんだそうだ。

家から歩いてすぐの公園のベンチがキラの特等席で、俺が迎えに行くと微笑んで「アスラン」と嬉しそうに俺の名を呼ぶ。
「キラ、お前また抜け出して……俺、心配したんだからな」
「大丈夫だよ。家から遠いわけじゃないんだから。それに、今日は調子良いんだ」
「…昨日熱出してうなってたくせに?」
「……き、昨日は昨日。今日は元気なんだからいいでしょ」
キラの隣に座りながらキラの額に手をあてる。どうやら熱は下がったらしい。
でも、油断は禁物だ。また熱を出さないなんて保障は無いに等しいのだから。

「今日、僕の誕生日なんだ」
「うん、知ってるよ。ケーキあるから一緒に食べような」
「アスランの手作り?」
「そう。だから早く帰ろう」
いつもだったら俺が帰ろうと誘えばおとなしく従ってくれるのに、今日はなかなか頷いてくれない。
「キーラ?また熱出ちゃったらどうするんだ?ケーキ食べれなくなっちゃうぞ」
「もう少し……あともう少し見ていたいんだ。…ダメかな?」
縋るような目で俺を見るキラにため息をつく。
「…あと少しだけ、だからな」
この目の前では俺に勝ち目は無い。
俺のため息混じりの返事を聞いてキラはまた微笑む。

キラの見ていたいモノ。それは桜だった。

ただ眺めるだけ。それだけで満足なんだそうだ。
桜にいろいろな思い出があるのは俺も一緒だ。

俺のその思い出の中で一番強く残っているものはキラの今にも泣きそうな顔だった。
でも最近は、キラの微笑む横顔も思い出に加わった。

――キラは桜を見て何を思うのだろう……?

それを聞いたことは無いけれど、今はまだ聞くべき時ではないような気がしている。


「僕、桜って好きなんだ」
「俺も好きだよ。桜にはキラとの思い出がたくさんあるからね」
唐突に言うキラに俺も答える。
「……もう帰ろうか。早くアスランが作ったケーキ食べたいし!」
「そうだな。一緒に帰ってケーキ食べよう」
キラと手をつないで歩く。キラの歩調に合わせながらゆっくりと。


俺たちの時間は他の人たちよりもゆっくり流れているような気がする。
戦争をしていた頃が忙し過ぎたから、これでちょうどいいのかもしれないと最近思うようになった。

だからまだ聞かない。キラの傷がもう少し癒えたら聞けばいいと俺は思っているから。


――俺はキラがいてくれさえすればそれでいいのだから。


だから祝おう。
今日という、君がこの世界に生まれてきてくれた日を、君と二人で。


-end.



後書き。
かなり遅れたキラたんおたおめss第三弾。おたおめssの最後はアスキラで締めくくってみました。
甘いとは言えないよな……って感じの微妙過ぎるモノになってしまいました。
題名はWaiveの曲から。歌とリンクはしてるかどうかは謎です。だってこの曲CD買ってないんだもん(コラ)
いつか買いたいとは思っている、そんな薄いファンです……




2005/ 5/25