――君をさらってどこへ行こう?
君とならどこへ行っても楽しいはず。
たどりついた場所がどんなところでも幸せなはず。
「絶対そうだよ。ね、アルベル」
「あ?何のことだよ?」
急に話しかけられた上に主語が無かった為、アルベルには全く意味がわかってなかった。
「えーと、こういう旅も結構楽しいよなーと思ってさ」
「そうか?道に迷ったり、戦闘があったりで困ることも結構あるんじゃねえの?」
「そうでもないよ。道に迷っても最終的には街にたどりついてるし、追いかけられたりで戦闘になっても基本的に返り討ちにしてるし、そんなに大変でもないよ」
「……まぁ、俺たちならそうだな」
確かにこの二人にはそこらへんの心配は皆無だ。
特に戦闘に関しては。
「僕たちの問題と言ったら、やっぱりアルベルが何か騒動を起こすことくらいじゃないか?」
「…フン。毎回なんとかなってんだから問題なんてねえだろ」
「毎回なんとかしてるのは僕なんだけど…」
アルベルをじとーっと見ながら言う。
なんだか居心地が悪くなるアルベル。
「…悪かったな」
いつになく素直に謝ったつもりだったが、フェイトはまだブツブツ言っている。
「悪いと思ってるならもう少し行動に責任を持って欲しいよ。大体さ、どうしていつも同じようなことで騒ぎを起こすんだよ。もう大人なんだから我慢するとか……」
ひとりごとのつもりのようだったが、アルベルには全部聞こえていた。
「あぁ、わかったよ!おとなしくしてりゃいいんだろ。グチグチうるせえな……ほら、ぼーっと突っ立ってねえで行くぞ」
そう言って手を差し出すアルベル。
「……何?」
「お前も手出せよ」
言われるままに手を出す。
すると、すぐに手を掴まれ引っ張られる。
「な、何だよ?急に引っ張るなんて…」
「お前がブツブツ言ってて動かねえから引っ張ってやってるんだろ!引っ張られるのが嫌ならさっさと歩け」
アルベルが言い終わるとともに、引っ張られていた腕が解放される。
「わかったよ。もう…」
掴まれていた部分をさすりながら、ゆっくり歩き出す。
何か思いついたのか、随分前を歩いているアルベルのところまで走っていくフェイト。
「なぁ、アルベル。何でそんなに急いでるんだ?」
「お前がゆっくりしてるせいで、もう日が暮れそうだからだろ、阿呆が」
まだ太陽を確認することは出来るが、あと少ししたら見えなくなってしまうような位置にあった。
「もっと急ぎたい?」
「あぁ。早く宿で休みてえよ」
そこまで聞くとフェイトは満面の笑みでアルベルに言う。
「手つなごうよ」
「あぁ!?何でだよ?別につながなくたって問題ねえだろ」
「だって急ぎたいんだろ?」
「…?…あぁ」
全く理解出来ていないアルベル。
さっきから満面の笑みを崩さないフェイト。
「僕、手つないでくれたら早く歩けるような気がするんだ」
そう、さわやかに言った。
まるで、語尾に星とかキラキラした絵文字が付きそうなほどに、さわやかだった。
「……わかったよ。つなげばいいんだろ、つなげば!」
「うん!」
上機嫌で歩くフェイトと少し不機嫌なアルベル。
「さっき『ほら』って手を出した時、手をつなぐのかと思って期待してたのに、アルベルってば腕引っ張るんだもん。だから僕から言ったんだ、手つなごうって」
「手をつなぐの好きなのか?」
「うん、結構好き」
「…子供だな」
そう言いニヤッと笑うアルベル。
「いいんだよ。僕はまだ大人じゃないんだから」
言い返しながら笑う。
本当に子供のような無邪気な笑顔で。
「それで、どこに向かって歩いてるんだい?」
「地図持ってるのは俺じゃねえよ」
「うん、地図は僕が持ってる……え!?じゃあ、どこに向かって歩いてるんだよ?」
「さぁな。俺このへん知らねえし」
「はぁ…」
大きなため息をつくフェイト。
「道に迷っちゃうから、適当に歩くのはやめてくれよ。はぁ…また迷子だよ」
地図を見ながらまたため息をつく。
急につないでいた手が引っ張られる。
「ちょっと待てよ。まだ道がわかってないんだけど…」
「何の為に手をつないだか忘れたのか?」
「え…早く歩く為、だけど」
「お前が地図を見てる間、手をつないでる俺が引っ張れば止まってなくても大丈夫だろ」
「でも、ここがどこだかわかんないのに適当に歩いたら迷うよ?」
「今までだって適当に歩いて、ちゃんとたどりつけたことがあるだろ」
「そうだけど…」
いろいろ言い合っている間にもアルベルはどんどん引っ張って歩いていく。
急に前を歩いていたアルベルが止まった。
「ほら、何か見えてきたじゃねえか」
そう言いながら、指さした方に小さくだが街らしきものが見えた。
「あ、街が見えた!…良かったぁ」
「これでわかったか?結構なんとかなるもんなんだよ」
「…うん。そうなのかもしれないね」
「じゃ、せっかく街もみつかったんだから早く行くぞ」
ぎゅっと強く手をつなぎ、また歩き始める。
「僕もう地図見てないんだけど?」
クスクス笑いながらふざけて言うフェイト。
「手をつなげば早く歩けるんだろ?嫌なら手を離して俺一人で行くぞ」
「絶対手をつないで行く!」
――どうやら僕が君をさらったのではなくて、僕が君にさらわれていたらしい。
-end.
後書き
バイト中に考えつきました。
ありえないくらい暇だったんですよ!!
私は手をつながせるのが好きなんです。優しい感じがして。
2004/ 8/24