幸福論



「今日はどうしたの?珍しいよね、こんなイザークって」
「……別にどうもしない。ただ、お前とこうしていたいだけだ」
「そっか」

俺の腕の中でクスクスと笑い出す。
本当はこんなことをしている場合ではないが、『こうしていたい』という思いのほうが強かった。
確かに珍しいかもしれない。こんな俺は。

「いつもしっかりしてる隊長さんが今日は甘えん坊な隊長さん?」
「いつもしっかりしてるからいいんだ。いつも甘えてばかりのお前とは違うだろ?」
「いつもじゃないですー。僕は誰かさんと違って正直者だから、甘えたい時に甘えるだけだよ」

ここがどこなのか忘れてしまいそうになる。
『戦争』なんて単語はどこかへ消え去って、今俺たちは軍人としてではなく、どこにでもいるような恋人同士になったような錯覚に陥りそうになる。
世界の行く末なんてどうでもよくなりそうになる。
俺にはこの腕の中の存在だけ在ればいい。そんな自分勝手なことを考えてしまったりする。

――でも。

キラはそんなことはこれっぽっちも望んでいない。
確かに俺のことも望んでくれる。
そして、世界の平和も望む。
『誰かが泣くのなんて誰だって見たくないでしょ』
微笑みながらも強い眼差しでそう言う。
誰よりも優しくて泣き虫なくせに、誰よりも強くて強固な意思を持っている。
どんなことがあっても揺るがない。

……そして、独りで隠れて泣く。

声を押し殺しながらに涙を流す姿は、存在すら危ういような儚さがあった。
本当は声が嗄れるくらいに泣き叫びたいくせに、誰かに頼ることを怖がる。
『弱くなるわけにはいかないから』
だから、その場限りの優しさなんていらないのだと。

まるで大人と子供、両方が存在しているようなそんな微妙な存在。
こんな扱いにくい人間と接したのは、キラが初めてだったような気がする。
危なっかしくて目が放せない。

そんなキラを好きになったのは必然だったのだろうか。
運命なんて陳腐な言葉にはくくりきれないこともこの世界にはたくさん溢れている。

俺がキラを、キラが俺を。
お互いが好きになってのは運命なのか、必然なのか。

最初の頃は気になっていたこと。
でも、今となってはどうでもいいこと。

よく考えたら、そんなことはどうでもいいことで。
世の中にはわからないままの方がいい事だってあるのかもしれない。
そう思えるようになったから。


それは誰の影響?

そんなもの決まっている。


「今日はお仕事お休みなんですかー?僕には山ほど仕事あるんですけど」
「俺もお前も今日は休みだ」
「え!?それはいつ、誰が決めたの!?」
「俺が今決めた。何か文句でもあるのか?」
「あるに決まってるよ!聞こえなかったの?僕、仕事がたまってるって」
ころころと面白いくらいに表情が変わる。
笑ったり、怒ったり、慌ててみたり。一日中見ていても飽きないと思う。
「キラ。お前は俺に逆らえるような立場だったか?」
「……ずるい。職権乱用って言うんだよ、そういうの」
「たまにだったらいいだろう。それで、どうするんだ?俺の命令に従うのか、従わないのか」
「僕に選択肢なんて、あるようで無いようなものじゃないか」
確かにキラの出す答えなんてわかっている。
だが、それをあえて聞く。
キラは文句を言いつつも答えるはずだから。
「従いますよ、隊長がそうおっしゃるならね!」
いつもより強い口調で言うキラ。
そんなキラの姿が微笑ましいのと同時に愛おしくて。
「たまにはこんなわがままもいいだろう?」
「……たまになら、ね。あまりわがままが過ぎると僕、イザークのこと嫌いになっちゃうから!」
「俺のこと嫌いになんてなれないくせに」
「うわー恥ずかしい。恥ずかし過ぎるよ、そのセリフ」
キラは冷静を装って言ったつもりらしいが、その顔は真っ赤だった。

こうやってからかってみたりしたいと思うのはキラだけ。
……俺は相当重症らしい。
それでも俺は、今の俺が嫌いではない。



俺が少しだけだとしても変われたのはキラのおかげだと思うと、なんだか嬉しくなる。
そして、出会った頃のキラが今のキラになる理由を作ったのが俺だと思うと、表現するのが難しいけれど幸せようなものを感じる。


幸せというものが、なんとなくわかりだしてきたような気がする。


-end.



後書き。
えーと、激しくお待たせしまくっちゃってたケータイサイトのほうのキリリクでした。
リクに当てはまっているようで当てはまっていないという、駄文でした。
イザキラ書いたの久しぶりかもしれない。ってか、更新が激遅過ぎるんですよね…。このヘタレ管理人めー!




2005/10/22