暗闇と雷と…




――早く、早く帰ってきて。



「ふぅ…」
急に降り出した雨に走って帰ってきたもののすっかり濡れてしまったアスラン。
このまま家の中を歩き回るといろいろなところが濡れてしまうため、アスランはとりあえずタオルを探す。

「あれ…?」
――家の中のどこにもキラの姿が見えない。

タオルはみつかったけれどキラが見当たらない。
(今日は家にいるはずだよな…)
「キラ?どこにいるんだ?」
「……」
返事も無い。
明らかにおかしい。大体、家の中が真っ暗なのも変だ。電気をつけないと、ほとんど何も見えない。
ひとつずつ部屋を探して、最後に寝室に入るアスラン。
「キラ…?」
部屋に入ってすぐに呼んでみる。
すると、微かに声が聞こえた。
「ア…スラン?」
部屋の隅でうずくまりながらも顔だけを上げるキラ。
そんな状態のキラを見て、アスランは内心慌てながらも慎重にキラに近付いていく。
「キラ、どうしたんだ?具合でも悪い…のか?」
「ううん、違くて……ひゃッ!」
急に悲鳴をあげるキラ。ちょうどそれと同時に窓の外が一瞬光って、すぐにゴロゴロと大きな音がした。
アスランの前には目をつぶって、耳に手をぎゅっと押し当てて耐えているキラの姿があった。

アスランはしゃがんでキラの頬に手を添える。
「大丈夫だよ、キラ。俺がそばにいるから」
アスランがそう言った瞬間、キラが動いた。

すごい勢いで抱きついてくるキラにバランスを崩したアスランは、ゴツンという音とともに倒れ込んでしまった。
「痛ッ……キラ、泣いてるのか?」
「…ふぇ……っく…こわ…い」
アスランの胸の上で泣き出すキラ。
いろいろなことが一気に起きて困惑しつつも、アスランはまず優しく質問してみる。
「雷が怖かったのか…?」
「音…と光がまるで戦争…してる時みたいで…いろいろ思い出しちゃって…」

「!」
まだキラは戦争でのことを引きずっている。まだ不安定、なんだ。それなのにこんな日に独りにさせてしまった。
(何してるんだよ、俺は!)
「独りにしてすまない、キラ。不安にさせたよな…」
「アスランが謝ることなんて無いよ。…ごめんね、迷惑かけちゃって」
顔を上げて微笑むキラ。その瞳はまだ潤んでいて、頬には涙のあとがある。
アスランは上体を起こして、涙をそっと指で拭ってやる。
「俺は迷惑だなんて思ったことは一度も無いよ。むしろ頼ってくれるのは嬉しい」
満面の笑みで言うアスラン。
そんなアスランを見てキラは、また涙を流す。
「ちょっ…どうしたんだ!?俺、何か変なこと言ったか?」
キラはクスクス笑いながらアスランにぎゅっと抱きつく。
「アスランがあまりにも嬉しいこと言ってくれるからだよ。嬉し過ぎて涙が出ちゃったんだ」
「嬉し涙…か。そういうのってなんかいいな」
「うん、そうだね。なんか…いいよね」
お互いの額をくっつけて笑う。

「アスランが一緒なら雷もきっと怖くないんだ。暗闇だって大丈夫」
「…そうか。いつまでも一緒にいような、キラ」
ふたりは少し見つめあってから、触れるだけのキスをする。
「アスラン大好きだよ。誰よりも……愛してる」
そう言うとすぐにアスランの胸に顔をうめてしまう。
そんなキラが可愛くて、自然と顔がゆるんでいくアスラン。
「俺もキラを愛してる。誰にも負けないくらい、ね」
「……恥ずかしいけど、すっごく嬉しい」
「うん、知ってる。俺はキラのことなら何でもわかるからな」
アスランが言った途端、急に顔を上げるキラ。
顔を真っ赤にしながらもぽつりと言う。
「…僕だってアスランのこと何でも知ってるよ」
「何でも?」
「うん。何でも知ってる…はず」
キラの微妙な答えに笑いながら、アスランはちょっとした意地悪を思いつく。
「自信無いの?」
「自信あるよ!何でも知ってるもん!!」
ムキになって答えるキラにクスクス笑い出すアスラン。
「キラ、すっごく可愛い」
「可愛くなんかないよ。もうっ!笑うなよー」
キラは顔をこれ以上無いというほど赤くさせて、アスランの胸をぽかぽかと叩いて混乱していた。
とりあえず落ち着かせる為にぎゅっと抱きしめて、背中をぽんぽんと軽く叩く。
「わかったよ。わかったから落ち着けって。……なんかいろいろあって疲れたから今日はもう寝るか」
「う、うん。…でもアスラン濡れてるよ?」
「あ」
そうだった。そういえば雨の中傘もささずに走って帰ってきたアスランは結構濡れていた。

「お風呂入りなよ。そのままじゃ風邪ひいちゃうよ?」
「そうだな。とりあえず風呂入ってくるよ……キラも一緒に入る?」
「……入らない。僕はもうお風呂に入ったの!アスランひとりで入って」
「寂しいなぁ…じゃ、明日は一緒に入ろうな!」
上機嫌で部屋から出ていくアスランを見ながらキラはぽつりとつぶやく。
「もう……アスランは優し過ぎるよ」


アスランはいつでも優しい。
いつだって僕のそばにいてくれる。
少し落ち込んだだけでもすぐに気付いてくれる。

――いつだって僕を見てくれているんだね。

ありがとう。
いつも心から感謝してる。

まだ雷は少し怖いけどいつか大丈夫な日が来ると思う。
だからもう少しだけ待ってて。
僕が今より強くなるのを。
きみの隣で胸を張って歩けるようになるまで僕は頑張るから。


-end.



後書き。
撃沈。見事に失敗な感じです…
また無駄に長めだし。



私は雷嫌いです。怖いですから。もし落ちたら…とか考え出すと電気製品を片っ端からコンセント抜いたりしてます。(笑)
2004/9/29