今日はゆっくり
「こんなにゆっくりするの久しぶりだなぁ」
ぼんやりとつぶやくフェイト。
今日はアルベルが体調を崩してしまった為に1日休みになっていた。
フェイトはずっとアルベルの看病をしている。
(看病と言っても、眠っているアルベルの傍にいるくらいしか出来ないけどね)
苦笑しながらも眠り続けているアルベルを見る。
トントン、とドアをノックする音とともに声が聞こえた。
「おーい、フェイト。入るぞ」
「あ、うん。どうぞ」
フェイトが許可したのとほぼ同時にクリフが部屋に入ってきた。
「なんか暇そうだな。どっか行くか?」
「ううん。僕、アルベルの傍にいたいんだ」
「そうか……でも、あまり気に病まない方がいいぞ。お前がすべて悪いってわけじゃないだろ?」
そう言いながらクリフはフェイトの頭の上にポンッと手を乗せる。
「うん。でもアルベルが調子悪いのは僕にも原因あると思うし…」
アルベルが体調を崩したのは雨の中、外を長時間歩いていたから。
フェイトとアルベルふたりで買い物に行った帰り道だった。急に雨が降ってきて、雨宿り出来るような場所が見当たらなかった為、しょうがなく走って帰った。
本来の目的だけで帰っていたら雨に降られることは、きっと無かった。
(僕が『ちょっと遠くまで行ってみよう』なんて言わなければ、アルベルは体調崩したりしなかったのに……)
「フェイト、お前は何でも重く考え過ぎだ。…今日はお前もゆっくり休めよ」
「…ありがと、クリフ」
笑顔でフェイトの肩を軽く叩いて部屋から出て行くクリフ。
クリフと話して、なんだか楽になった気がする。
「本当にありがとう」
もうここにはクリフはいないけれど、ぽつりと言う。
それから少ししてからまたドアをノックする音がした。
「フェイトいるー?」
幼なじみの声に反応してドアを開ける。
「あぁ、いるよ。何か用かい?」
「うん。あのね、ちょっと買い物に付き合ってもらいたくて」
少し考える仕草をするフェイト。
「…今はアルベルの傍にいたいんだ。だから…」
「そっかぁ。それじゃ、しょうがないよね」
「ごめんな、ソフィア」
「ううん、そんなに急ぎでもないから気にしないで。フェイトはアルベルさんの傍にいてあげて」
笑って言うソフィア。
ソフィアにまで気を使わせてしまっている。
(ダメだなぁ…)
つくづくそう思う。
「今度誘う時は絶対付き合ってもらうからね!」
「あぁ、約束する。次は絶対付き合うよ」
「覚悟しておいてよ〜じゃ、また明日ね」
何をどう覚悟すればいいのかよくわからないけれど、手を振って部屋を出ていくソフィアに手を振り返す。
ソフィアが出て行くのと同時にマリアが部屋に入ってきた。
「調子はどう?」
入ってくるなりそう言うマリア。
「今は寝てるよ。もう大丈夫みたい。迷惑かけちゃってごめん」
「気にすることないわ。最近いろいろと忙しかったからちょうどいい休みになったんじゃないかしら」
確かにそうかもしれない。もしかしたらアルベルが体調を崩したのはそれも関係しているのかも。
「…うん。そう、だね。なんか僕、みんなに気を使わせちゃってるみたいだね」
「みんなは迷惑だなんて思ってないわ。あなたが気にし過ぎなだけ」
「クリフにも似たようなこと言われたよ」
言いながらもクスクス笑うフェイト。
「そう。みんなあなたのことが心配なのよ、きっとね」
そんなことを話しているうちにアルベルが目を覚ました。
「あ、起きたね。…調子どう?」
「悪くはない」
ふたりのやりとりを見て微笑み、マリアは部屋から立ち去る。
部屋から出ていく寸前に一言だけ残して。
『ふたりでゆっくり休みなさい』と。
「それもクリフと同じだよ、マリア」
クスクス笑いながらつぶやくフェイト。
「なぁ、フェイト」
「んー?何か用?」
ベッドの近くに置いてある椅子に座ってアルベルの方を向きながらフェイトは答える。
「お前、今日ずっとここにいたのか?」
「うん。どうして?」
「別にやることも無いから暇だったんじゃねえのか?」
「ううん。そんなことないよ。みんなが部屋に来てくれたりしてたし」
それを聞いてアルベルは少し眉をひそめた。
「……何しに来たんだ?」
「えーと、クリフにはどっか行こうって誘われて、ソフィアには買い物に付き合ってって言われたよ。マリアは様子見に来たみたいだったなぁ」
「…」
「みんなに気を使わせちゃったみたい」
「何を言われたんだ?」
「んー…確か『考え過ぎ』とか『今日はゆっくり休め』とか」
今まで言われたことを思い出しながら、ぽつりぽつりと言葉にする。
(周りから見るとそんな風に見えていたのかなぁ?そんなに考え過ぎてるってわけでもないと僕は思うんだけど…)
「確かにお前は考え過ぎてることが多いな。どうせ今回のことも自分のせいじゃないかって気にしてたんだろ」
「う…うん」
「はぁ」とため息をついてからアルベルはフェイトの方を見て話し出す。
「あれはお前のせいじゃねえよ。気にするな」
「でも…」
「お前は本当に人の言うことを聞かねえな。俺がお前のせいじゃねえって言ってるんだから素直に納得しろ」
ポン、と頭の上に手を置かれる。
「…うん。今日は納得しておく。みんなにも言われたし」
「それともう1つ」
「な、何!?」
急にベッドからアルベルの腕が伸びてきて、腕を掴まれるフェイト。
「今日はゆっくり休めって言われたんだろ」
「さっきからゆっくり休んでるよ」
「…本当か?」
「いつもよりはゆっくりしてる……って、うわ!?」
腕を引っ張られベッドの上に引きずり込まれる。
「お前はいつも頑張り過ぎなんだよ。だから今日はさっさと寝ろ」
いつの間にかアルベルの腕の中にいるフェイトは突然のことに多少混乱していた。
「え?あ…う、うん」
「今日はずいぶんとおとなしいじゃねえか」
満足そうに言うアルベル。
「だってアルベル病人だし」
「お前は病人相手だとおとなしくなるのか?」
アルベルの言ったことにキョトンとしながらもフェイトは答える。
「え?普通そうだろ」
「……」
「…?…まぁいいや。僕、なんだか眠くなってきたからもう寝るよ。アルベルもしっかり休めよ」
「あぁ、わかってる。お前こそしっかり休めよ」
アルベルの返事を聞いてすぐにまぶたを閉じて寝る体制に入るフェイト。
そしてすぐに規則正しい息遣いがしてきた。
アルベルはフェイトの寝顔を見ながら『たまには病人になるのもいいな』と思い、自らも眠りについた。
-end.
後書き。
確か争奪戦って予定だったはず。
…これ争奪戦…??違うよなぁ。明らかに違う。
エセ争奪戦ってことで(泣)
2004/9/18