無意識と意識



「……キラ。キラ・ヤマト。ここをどこだと思ってるんだ?」
気持ち良さそうに寝ている俺の部下。
隊長室でこんな穏やかな寝顔で眠れるやつはきっとキラだけだろう。
この部屋以外にもきちんと自分の部屋はあるはずだ。
それなのに、キラは必ずこの部屋で眠る。
……それについては、何も言わない俺も悪いのかもしれないが。

ひとりではもう眠れないのだ、と。

そう言われてしまっては、追い出すことなんて俺には出来なかった。

「キラ、起きろ」
とりあえずは起こさなければ。
俺にはまだやらなければならないことがいくつもある。
いつまでもここにいるわけにはいかない。
そしてきっと、キラも同じはずだ。

「…イザ……ク」
「さっさと起きろ。お前だってここで寝ていられるほど余裕は無いだろう?」
「……」
「……キラ?」
どうやら寝言だったらしい。


キラは放っておくとすぐ寝るし、一度寝てしまうとなかなか起きない。
だから『ひとりで眠れない』というのが信じられなくて、少しの間俺の部屋に入らせないようにしたことがある。
日に日に顔色は悪くなっていくし、ふらふらと歩いているのを見て不安になってキラが眠っていると思われる時間に部屋を訪ねたことがある。

……すぐに後悔した。どうしてアイツの言うことを信じてやれなかったのかと。

灯りひとつついていない部屋の片隅で、きつく自分を抱きしめるようにして座っているキラ。
何してるんだと聞いて、ぽつりと返ってきた答えと裏腹な表情に胸を締め付けられた。
「だって、眠っても嫌な夢を見るだけだし。……あんな夢を見るくらいなら寝ないほうがいい」
弱々しく微笑みながら言ったキラを抱きしめた。

強く、強く抱きしめる。
独りじゃないとわからせるために。
ぬくもりが悪夢を追い払うというのなら、これが一番だと思ったから。

その日から俺とキラは一緒に眠るようになる。
抱きしめてやれば、安らかな寝息をたてて眠るようになった。
慣れてくると俺の部屋でなら、俺がいなくても眠れるようになった。

キラが俺と眠るようになってから変わったことといえば、毎朝の仕事がひとつ増えたくらいだろうか。
まるで母親のようだとキラに言われたことがある。
普通だったらそこで文句のひとつでも言いたくなるのだが、そんな気にならなかった。

――それはきっと、キラだから。

「いつもありがとう」と微笑むキラ。
そんなキラを見れるなら、毎朝の仕事も楽しみになる。

……どうかしてると思う。
こんな風に物事を考えるようになるなんて思いもしなかった。
でも、これが今の俺なんだ。
キラと一緒にいるようになって、気付いたらこうなっていた。
そして、それが普通になっていた。

「……イザーク」
寝言で俺を呼ぶキラ。
起きる気配は全く無い。
さっきも呼ばれたが、もしかしたらキラの夢の中に俺が存在しているのだろうか。
なんだか気になってつい顔を覗き込んでしまった。

「……まったく」
そんな言葉しか出てこなかった。

――キラがあまりにも幸せそうに微笑んでいたから。

自分の名前を呼びながら微笑まれることが、ただただ嬉しい。
他人のちょっとした一挙一動にここまで心が揺り動かされることなんてキラと出会うまでは、体験したことが無かった。

キラのことを愛している。
それ以上の思いなんて俺の中には存在していないくらいに。

キスをする。
最初は啄ばむように、そして最後は息も出来ないくらいに。
お互いの酸素を分け合うように、奪い合うように。

「……っ、もう!苦しいよ!」
「ようやく起きたか。……俺に感謝してほしいところだな、眠り姫様?」


人を愛おしいと思うことなんて初めてだった。
こんな感情を意識したのはいつからだったか。

『いつかこの愛おしさが溢れてしまいそうだ。』

……なんて言ったらお前は、何と答えるのだろう?


-end.



後書き。
携帯サイトでのキリリクでした。
イザキラ甘々になっていればいいのですが。
最近短いものしか書いてないですね……(汗)




2005/11/13