何者にもなれない僕たちは



「何かを好きだと思えるうちは、僕は僕でいられるんじゃないかな」
そう笑顔で言ったキラは、眩しいくらいに輝いていた。
俺はそんなお前が好きでたまらないんだ。


「アスラン、どうしたの?」
「どうもしないよ。どうして?」
「なんか視線を感じるような気がしたから」
「俺がキラを見てるからだろ」
「やっぱり。それで、何か用なの?」
「別にこれといって用はないよ。ただキラを見ていたい、それじゃ理由にならないのか?」
「……相変わらず恥ずかしいことを普通に言うね、アスランは」
クスクスとベッドの上で笑うキラの瞳は俺を映していない。
キラの瞳はガラス玉のように虚ろで、少し、ほんの少し悲しくなる。
でも、キラはこれ以上無いくらい幸せそうに笑う。

もし俺だったらこんな風に誰かに微笑むことが出来るだろうか?
……きっとそれは不可能だと思う。

キラはとても弱くて脆いような印象が強いけれど、誰よりも何よりも強い一面もある。
失明したときも一番落ち着いていたのはキラ自身だった。
「この程度ですんだことに感謝しないとね」そう言うキラの前で不覚にも俺は泣いてしまった。

いつだったかは忘れてしまったけれど、あれほど泣き虫だったキラが泣かなくなったことに気付いた。
まるで涙を忘れてしまったかのように、泣かない。
……今考えれば、キラはただ強がっていただけなのかもしれない。
誰にも見せることはないけれど、どこかで一人泣いていたのかもしれない。
キラは優しいから。……悲しくなるほど優し過ぎるから。

強く前だけを見据える瞳には一体何が映っているのだろうと聞いてみたかった。
でも、それを聞く前にキラは視力を失ってしまった。


ある日突然キラがぽつりと言ったことがある。

「僕には今でも見えるもの、たくさんあるんだよ。たとえ目が見えなくても見えるものだってあるんだから」

そんな一言がどこか後ろ向きだった俺を変えたのかもしれない。たった一言、でも俺には何よりそれが必要だったのかもしれない。
キラの言葉には何と言い表せばいいのかわからないけれど『力』がある。

「世界は悲しいだけじゃないんだよ。人間と同じように喜怒哀楽全てが存在しているからこそ世界なんだ」

言われた瞬間、世界が少しだけ優しくて温かいものになった気がする。

どうしてキラなのかと、嘆いたこともある。神様がいるとしたらなんて残酷なのか、と。
けれど、そうではないのかもしれない。
悲観しているのは俺たちだけで、キラは全てを受け入れて一日一日を大切にしている。
そんなキラが好きで好きでたまらない。





これからもキラにはキラのままでいて欲しいし、俺は俺のままでいたい。
キラが言っていたように、何かが好きだと思えることが自分を自分でいさせるというのなら。

――だったら俺は最後までお前を好きでいたいよ。

だからこれからも俺はお前に伝え続ける。
「キラ、好きだよ。ずっとずーっと愛してる」

愛していると何度でも。


-end.



後書き。
今年最後の更新になると思われる駄文です。もしかしたら何かもう1つくらい更新できるかもしれないですが。
今年はアスキラに始まりアスキラに終わるって感じです。




2005/12/31
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