日常茶飯事
「…キラ?そんなに大荷物でどこに行くんだ?」
「えーと、僕もよくわかんないんだけど……とりあえずイザークのところ…うわぁ!?」
キラはそう言っている途中で運んでいた書類を全部ばらまいてしまった。
どうしよう、どうしようと慌てて書類を拾い続けるキラを見てディアッカは、ひとつため息をつきながらも微笑んで書類を拾うのを手伝う。
「お前はほーんとに可愛いなぁ」
「子供扱いしないでっていつも言ってるのに」
「可愛い弟が出来たみたいで嬉しくて…つい、な」
全部書類を拾い終えてからキラの頭を撫で続けるディアッカに、キラはいつも通りの文句を言う。
文句を言いつつもキラはとても楽しそうに笑っている。
そこにキラの探していた人物が現れる。
「ディアッカ、キラ!お前たちはいつまで遊んでいるつもりだ…?」
「うーわ。なんかイザーク機嫌悪いんじゃないか?」
「う、うん。怒鳴られる前に早く仕事に戻ろっか」
「じゃ、じゃーなイザーク。俺、仕事に戻るから…またな、キラ」
小声で言うディアッカに、キラは手を振って「うん、またね」と小声で返す。
「キラ、お前はどこに行ってたんだ?」
「イザークを探してたんだよ。イザークこそどこにいたの?」
「俺もお前を探してた」
「二人でお互いを探しあってたんだ…」
そう言い終えると同時にクスクス笑い出すキラ。
突然笑い出したキラにイザークは困ってしまう。一体何なんだ、と。
キラがジュール隊に入ってきてから結構な月日が経つが、いまだにキラの行動がよくわからないことがよくある。
今のように突然笑い出したり、時にはひどく落ち込んで静かに涙を流していることもある。
「…なんか、嬉しくってさ。イザークも僕を探してくれてたってことが」
「そうか。…で、何でお前は俺を探してたんだ?」
なんとなく用件はわかっていたけれど、一応聞いたイザークに一生懸命持っていた書類を差し出してにっこり微笑むキラ。
「はい、これ。さっき全部ばらまいちゃって大変だったんだから。それをディアッカに手伝ってもらったんだよ。だからディアッカを怒らないであげて」
それだけ言うとキラはイザークに背を向けて歩き出そうとする。
「キラ、どこへ行くんだ?」
「さっき仕事途中で中断してきちゃったから、もう戻らないと」
「そうか……キラ、ちょっとこっちへ来い」
「え。なぁに?イザーク。何か用事?」
イザークは渡された書類を下ろしながらキラを呼び寄せる。
首を軽く傾げながらイザークに無防備に近付いていくキラと、そんなキラを見ながら僅かながらも微笑むイザーク。
こんな風にイザークが微笑むのは、きっとキラの前でだけだろう。
イザークの目の前に立ったキラは何も言わないイザークを不思議に思い、もう一度声をかける。
「イザーク?……どうしちゃったの?」
下から表情を伺うように見上げるキラに一瞬だけ視線を視線を合わせるイザーク。
イザークと視線が合った次の瞬間、キラの視界は真っ白になる。
「イ、イザーク…?」
「……」
黙り込んでしまっているイザークと突然のことに慌て始めるキラ。
「……俺が何故、お前を探していたかわかるか?」
しばらくキラを黙って抱きしめていたイザークが突然口を開いた。
「…あ、そういえば聞いてなかったね。……うーん。どうして僕を探してたの?」
少しの間考えていたキラは結局何も思い当たることが無くて、質問に質問を返す。
「俺はお前に質問していたんだが。…まぁ、いい。今すぐ答えを教えてやるよ」
口の端を吊り上げるようにしてニヤリと笑ったイザークは、キラの腰に回していた腕の力を強める。
触れるか触れないかの距離にお互いの口唇がある状態になり、キラの顔はだんだんと赤く染まっていく。
「わかったか、キラ」
イザークが何か言葉を発するたびに自分の口唇に触れるものに、キラはますます顔を赤くしてしまう。
「…キラ」
とどめとばかりにゾクゾクするような声で囁くイザーク。
流されてはいけないと、キラは目をぎゅっとつぶってイザークの胸を力いっぱい押し返そうとするが、イザークの腕にこめられた力は思っていた以上に強くてびくともしない。
「キラ…いい加減落ちろ」
「ダメだってば……僕、まだ仕事ある…ん」
キラが言おうとしていることを自分の口唇で塞いでしまうイザークにキラは弱々しくも抵抗を続ける。
「もう、だまれ」
「ゃ…イザ……ぅん…ダメだっ……んんっ」
キラの小さな抵抗など気にする様子も無く、ついばむように何度も何度も口付けるイザーク。
「……そんなに仕事に戻りたいか?」
「当たり前でしょ!いろいろやり残しちゃってて大変なんだから」
「キラから俺にキス出来たらこの腕緩めてやってもいいぞ」
そう言いながらまたニヤリと笑うイザークを、キラは睨みながら軽く触れるだけのキスをする。
「これでいいでしょ!早く力緩めて!」
口唇を離した途端、すごい勢いでそう言うキラ。
イザークが苦笑しつつ腕の力を緩めてやると、すぐにキラはイザークから離れる。
「今日のイザークは意地悪だからあまり好きじゃない」
離れた途端にそんなことを言うキラにイザークはまた苦笑する。
――あまり好きじゃない。
『嫌い』ということではない。今はその事実さえあれば充分だと思っている自分がいる、そんなことをぼんやりとイザークは考えていた。
「俺はそんなこと言うキラも好きだが」
「〜っ。そ、そんなこと言ったって僕はもう仕事に戻りますから!」
イザークが『好き』と言った瞬間、またキラの顔はほんのり赤く染まった。
そして、すぐにキラはイザークに背を向けてスタスタと歩いていってしまった。
歩きながら顔を赤く染めてブツブツと何か小声で言い続けるキラ。
そんな後姿を見て優しく微笑むイザーク。
「「嫌いになれるはずなんか無い」」
結局それが二人の結論。
-end.
後書き。
携帯サイトでのキリリクでした。キラinジュール隊設定です。
こんな感じの日常を送ってくれていたらなーなんて思って書きました。
2005/ 5/28