お気に入り
「キラ」
「…キラ」
「……なぁイザーク、キラどうしたんだよ?」
「知らん。俺がここに来たらもうこんな状態だった」
「はぁ…。こーんな可愛い顔して寝ちゃって」
今、イザークとディアッカの話題は『キラ』。
そのキラは今、二人の前で気持ちよさそうに熟睡中。
「また軍服着たまま寝てる……しわになるから脱げといつも言っているのに」
ブツブツ言うイザークを見てまるで母親のようだ、とディアッカは思っていた。
キラがここに来るまではイザークにこんな一面があることをディアッカは知らなかった。
そんなイザークが微笑ましくて、見ていて飽きないなとディアッカは思っていた。
「……お。キラ、何か抱きしめてるぞ」
「…あぁ、これか」
眠り続けるキラの腕の中には『何か』があった。
「何それ。ぬいぐるみ?」
「キラがこれがいいと言うから俺が買ってやったんだ」
「なーんか大事そうに抱きしめちゃって。こうしてぬいぐるみなんか抱きしめてると間違いなく女の子だよな…」
しみじみ言うディアッカを放っておいて、イザークは少し前のことを思い出していた。
――キラの誕生日の日のことを。
5月18日。
その日、イザークとキラは半ば強制的に休みになっていた。
ディアッカが「今日はイザークもキラも休みだ」と当日に言ったのだ。
軍服を着て、今まさに部屋を出ようとしていた二人に笑顔でそれだけ告げて去って行った。
「……ど、どうしよう。ねぇ、イザーク」
「…キラ、今日ってお前の誕生日なんじゃないか?」
「……あ!そういえばそうだね」
キラは人のことは必要以上に気にするのに、自分のことは無頓着だったりする。
「…街にでも出るか」
「うん、そうだね。せっかくディアッカがお休みくれたんだし」
にこにこと微笑みながら言うキラに、ディアッカに感謝しなければとイザークは心の隅で思った。
どこへ行くかも決めずにブラブラと歩く二人。
「キラ、何か欲しい物とかないのか?」
「うーん……。これが欲しい!っていうのはとくに無いんだよね」
キラは普段から物を欲しがることがほとんど無い。
だからなんとなくわかっていたけれど、やはりイザークが思っていた通りの答えが返ってきた。
どうしようかと悩んでいたら、突然キラがある店のショーウインドウに走り寄って行った。
「ねぇ、見てイザーク!」
子供のように喜んでいるキラに何事かと思い、近付いてみるイザーク。
キラが見ていたのはおもちゃ屋のショーウインドウだった。
ショーウインドウに飾ってあるものを指差しながら、キラは楽しそうにイザークに話しかけた。
「あれ、イザークみたいだよ」
「…どれがだ?」
「あの白いの。ね、お店の中に入って見てもいい?」
「あぁ、見てくるといい。俺は「イザークも一緒に入るんだよ」
イザークが言おうとしていたことを遮って一言言うキラ。
しっかりとイザークの手をつかんで店の中に入っていくキラと少し困ったような表情のイザーク。
「ほら、あれあれ!」
歩きながら言うキラが指差した先には白いテディベアがあった。
「あぁ、あれか…」
「うん。イザークに似てるでしょ?」
「そうか?」
「ほら、似てる。銀に近いような白い色してるし、瞳の色がイザークのと似てる」
そのテディベアを嬉しそうに抱き上げているキラを見たイザークが一言だけ言った。
「買ってやろうか?」
「い…いいよ。そんな、別に」
そう言いながらキラは頭を左右に振って、力の限り否定する。
「今日はお前の誕生日だろう?俺からのプレゼントだ」
イザークは言うと同時にキラがだっこしていたテディベアをひょいと持ち上げて、レジへ歩いて行ってしまった。
「ちょっ…イザーク!?僕、欲しいなんて言ってない」
「口では言ってなくても目がそう言ってた」
「言ってないよー!」
キラが一生懸命否定している間に、綺麗にラッピングされたテディベアがイザークに渡される。
「ありがとうございましたー!」
「えぇ!?イザーク行動早過ぎ!いつの間に!?」
「お前が少し目を話した時に。」
「ズルイ!」
「別にズルくなどない。…ほら、欲しかったんだろう?」
イザークがキラの目の前にラッピングされたものを差し出す。
「そんなこと言ってない!」
「じゃあ、捨てるぞ。俺はいないからな」
「ちょ…だめだよ、そんなの。かわいそうだよ」
「お前が欲しくないというのなら、俺はいらん」
いつまでも欲しいと言わないキラに最終手段とばかりに言うイザークに、キラはどうしようと頭をかかえる。
「素直に欲しいと言えばいいだろう?」
「だって、僕……」
「いいから素直に欲しいと言え!」
だんだんイライラし始めてきたイザークが少し強く言うと、キラは小さな声でぽつりと言った。
「欲しいです」と。
「最初からそう言えばいいんだよ。お前は変なことで意地を張りすぎだ」
「…ごめんなさい」
イザークが差し出していたものをぎゅっと抱きしめながら謝るキラの頭を撫でるイザーク。
「そろそろ帰るか」
「うん」
すっかりおとなしくなってしまったキラに、イザークは苦笑する。
「……ねぇ、イザーク」
「何だ?」
「ありがとう。…大事にするから」
ぎゅっと手をつなぎながら言うキラにイザークも握り返してやる。
「俺はお前に喜んでもらえればそれで満足だ」
「誕生日おめでとう、キラ」
「ベッドに寝かせてくる」
キラを起こさないように優しく抱き上げてそう言うイザークにディアッカは「あぁ」と軽く返事する。
しばらく黙っていたディアッカが微笑みながらぽつりと言った。
「本当に見てて飽きないよな」と。
「イザ……ク…」
「……寝言か」
ベッドに寝かせようとしていたらキラがイザークの名前を呼んだ。
寝かせてから少しキラの寝顔を眺めていたイザークはふとキラが抱きしめているものに目線を移動させた。
「俺が一緒にいてやれない時はお前が俺の代わりになってくれ……なんてな」
そう言いながら微笑む。
キラに視線を戻すと、キラも幸せそうに微笑んでいた。
「こういう姿を見ると少し妬けるな」
キラの頭を撫でながら呟く。
「イザーク……だいす…き」
「……俺もだ」
そう言ってイザークはキラの額にひとつ、口付けをした。
-end.
後書き。
イザキラなキラたんおたおめss。
今日はキラたんの誕生日です。間に合って良かった…!
2005/ 5/18