「おはよう、キラ」
「う……ん。おはよう…あすらん」
「キラ、手を出して?」
まだベッドの上で寝ぼけている状態のキラは言われるままに俺の前に小さな手を差し出す。
そして、俺はキラの手の上に小さな箱を置いてあげる。
「んー……これ、なぁに?」
「プレゼントだよ。約束してただろ?」
キラは自分の手に乗っている箱をぼーっと見つめる。
「…あ!ぼくのおともだち」
「うん、そう。開けてみて?」
嬉しそうに微笑んで箱を開けるキラ。

箱からキラが取り出したのは緑色の鳥型のマイクロユニット。
「とり?」
「うん。キラは鳥は嫌い?」
「ううん。すき。だってとべるんだよ?すごいよね」
キラの手の中のマイクロユニットの電源を入れてあげる。
『トリィ』と首を傾げながらキラの手の中で鳴く『それ』。
「うわーすごい!なくし、うごくよ」
「それにね、飛べるんだよ」
キラの手の中にいた『それ』は一度高く飛び上がってから、キラの頭の上にちょこんと乗った。そしてまた『トリィ』と鳴く。

「ねぇ、あすらん」
「ん?どうしたの、キラ」
「このこになまえつけてもいい?」
「いいよ。キラと友達になるんだから名前が無いと不便だろ?キラが好きな名前をつけて?」
頭の上にいた『それ』を再び手の中に戻して微笑むキラ。
「きょうからきみは『とりぃ』だよ。それでね、ぼくはきら。よろしくね」
そう言うとキラはトリィを自分の顔に近付けて、何か小声で言ったようだった。
言い終わってまた微笑む。

そしてキラは俺の方を見る。
「ありがとう、あすらん。すーっごくうれしい」
「喜んでもらえたみたいで良かったよ」
本当に良かったと、心から思う。

トリィはしばらくの間キラの手の上でおとなしくしていたけれど、急にそこから飛び上がって部屋から出て行ってしまった。
少しだけ部屋のドアが開いていたのに気付かなかった。

「あ…とりぃが」
そう言ってまだパジャマ姿のままでキラはトリィを追いかけようとドアの方へ向かって、とてとてと歩いていく。
「あーちょっと待って、キラ。そんなに慌てなくても大丈夫だよ」
ドアにたどり着く寸前でキラを後ろから抱き上げる。
いつもならキラはこうやってだっこしてあげるとおとなしくなるのに、今日は珍しく俺の腕の中でばたばたと暴れている。
「だって、とりぃっ!まいごになっちゃうよ」
俺の方を振り向いてそう言うキラ。
「大丈夫だよ。ちゃーんとキラのところに戻ってくるから」
「ほんと?ぼくのところにかえってきてくれるの?」
「うん。だからそんなに慌てないで大丈夫だよ。…ゆっくり食堂に行って朝ごはん食べよう?」
そう、今はもう朝ごはんの時間だ。
「朝ごはん」と言った途端、キラは「あ」と小さく言う。
「うん…おなか、すいてる……かも」
「そう。じゃあ、朝ごはん食べに行こうね。待っててあげるから準備しておいで?」
そう言ってキラを下ろしてあげる。
「うん」と小さく頷いて部屋の置くに向かって走るキラ。

そんなキラが可愛くてしょうがない。
親バカだの何だのと言うヤツもいるけれど、可愛いものは可愛い。

――何だかんだ言って結局みんなキラのことが可愛いくせに。

「じゅんびできたよ。……あすらん?どうしたのー?だいじょうぶ?」
「あぁ、ごめん。少し考え事してただけだよ。じゃ、行こうか?」
「うん!」
二人で手をつないで食堂へ向かう。
自分の部屋から食堂までの距離はあまり無い。キラの歩幅に合わせて歩いてもすぐについてしまう。
そんなわずかな時間にすら、癒される。
「あ!みんないるよ、あすらん」
キラが指をさしながら言う。指さされた先にはいつものメンバー。
…だけかと思いきや、ひとつ違うモノがいた。
キラからはまだ見えていないようだけど、気付いたらきっと大喜びするだろう。
俺の手を引っ張ってどんどん歩いていくキラ。
あと少しでたどり着くというところで、やっとその存在に気付いたらしいキラは急に大きな声を出した。
「あ!とりぃだー!」
そう言った瞬間、歩いていたはずのキラは突然走り出した。手を引っ張られている俺も自然と走り出す。

「あ。キラくん、アスラン。おはようございます。これ、キラくんのなんですか?」
「にこる、おはよー。これはぼくのあたらしいおともだち。とりぃっていうの」
「そうなんですかー。可愛いですね」
「うん。いいでしょー」
ニコルにトリィを褒められて上機嫌のキラはみんなにトリィを紹介していた。
「なぁ、キラ。それどうしたんだ?」
「それじゃないよ。とりぃだよ。さっきいったでしょー?あのね、とりぃはあすらんにつくってもらったの」
ディアッカがトリィを『それ』呼ばわりしたのに少し腹を立てたのか、頬をぷーっと膨らませながら言うキラ。
どうやらしっかりと『トリィ』と呼んでもらいたいらしい。

「そっか良かったな。えーと…トリィ、だよな?」
「うん。とりぃのこといじめないでね」
「キラの嫌がることはしないだろ、俺らは」
そう言ってキラの頭を優しく撫でるディアッカ。
少し機嫌が悪くなりかけていたキラは、頭を撫でられただけで上機嫌になる。
「うん。みんなやさしいもんねー」
えへへと笑うキラ。
「ほら、キラ。おしゃべりもいいけどちゃんとご飯も食べて?」
「うん。ねぇねぇ、いざーくは?」
そういえばイザークがいなかった。いつもならこのメンバーに含まれているはずなのに…。珍しい、かもしれない。
「あー。イザークはどこ行ったんだかわかんないんだよなぁ」
「そうですね。さっきまでここにいたんですけど、急にいなくなっちゃったんですよね」
「そうなんだ…いざーくにもとりぃのことしょうかいしたかったのに」
残念そうに言うキラ。
「イザークにはまたあとで紹介すればいいよ。ね?」
「…うん。でもきょうのうちにしょうかいするんだ!」
そう言うとキラは急いで自分の前に置いてあるご飯を食べ始める。
「キラ、そんなに慌てるとのどにつっかえちゃうよ?…あぁ、ほらこんなにこぼして。口の周りにもついてる…」
キラの口の周りを拭いてあげていたらディアッカがぽつりと言った。
「相変わらず『いいお父さん』してるな、アスランは。」
「うらやましいか?」
俺はすぐに聞き返してみる。
「……うらやましくないと言ったら、嘘になるな。キラ可愛いし」
「そうですねー。キラくんって本当に可愛いですよね。はい、キラくん。これあげます」
さりげなく会話に入ってきたニコルはキラにプリンをあげていた。
キラは嬉しそうに受け取ると「ありがとう」ときちんとお礼を言う。

おいしそうにプリンを食べていたキラが急に「あ!」と大きな声を出した。
「どうしたの?キラ」
「いざーくみつけたっ!ぼく、いってくるね」
それだけ言うとキラは走って食堂の入り口付近に行ってしまった。

走っていくキラの姿を見ていたら、その先には本当にイザークがいた。
キラはイザークの手をつかんで一生懸命背伸びしながら話しかけていた。
そんなキラを見かねてか、イザークがしゃがんでキラと目線を合わせる。ここからではイザークの顔は見えないが、きっと笑っているんだろう。
「キラくんがここに来てからイザークも変わりましたよね」
「そうだよなぁ。キラが来る前はあんなイザーク想像も出来なかったからな」
しみじみと話すニコルとディアッカ。
「…アスランの変わり方にも驚きましたけどね」
そう言いながら笑うニコルに「確かにな」と言いながらディアッカも笑う。
これはよく言われることだからもう慣れてしまった。だからあまり気にならない。

イザークとキラはずっと何か話しているようだった。
結構離れているからどんなことを話しているのかまではわからないけど、きっとトリィのことだろう。さっき紹介するって言ってたし。

そのトリィはどうしてるかというと。
キラの頭に乗ったり、肩に乗ったりしていた。
と、思ったらキラの手の上に乗った。


その時、キラがとても…何か言葉では言い表せないほど幸せそうな表情をした。

それを見た瞬間、こっちまで幸せになったような気がした。

キラにトリィをあげたのは俺だけど、俺もキラに何か貰ったような気にすらなった。


きっとキラは気付いてないんだろうけど、俺はいつもキラに何か貰っている。
それは「癒し」だったり「優しい気持ち」だったり、形を成さないようなものだけど、それに救われて今の俺があるのかもしれない。



いつもありがとう。

そして…

メリークリスマス、キラ。


-end.



後書き。
かなり遅くなりましたね…クリスマスちったいたんの続きです。
結構長くなりましたが、どうなんでしょう?クリスマスっぽくなってればいいんですけど。
ちったいたんではトリィはこの時に出来たという設定になりました、私の中で。




2005/ 1/16

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