宣戦布告
「キラ、今日は会えるか?」
「ごめん、アスラン。僕、イザークと出掛ける約束してるから今日はちょっと無理なんだ。次は絶対予定空けておくからまた今度誘ってくれる?」
「あ、あぁ。じゃあ、また今度な」
「うん。本当にごめんね」
そう言って通信は切られてしまった。
最近こんなことが多い。
何か気になる。どうしてイザークなのか、と。
イザークとキラが初めて会ったのはヤキン・ドゥーエでの戦いが終わってすぐだった。俺とディアッカとで二人を会わせたんだ。
少し自己紹介をしたところでキラは今までの疲れが溜まっていたせいか、急に気を失って倒れてしまった。
それから少しの間キラはずっと調子が悪くてベッドから出られない日々が続いていた。
その時にずっとキラのそばについていたのは俺ではなく、何故かイザークだった。
それからだった。キラとイザークが急に仲良くなったのは。
何があったのかは全くわからないけれど、何かあったということだけは確かだ。
「アスランって本当に馬鹿だよな」
「…っな、何だよ急に」
「ええ。本っ当お馬鹿さんですわね、アスランは」
「ラクスまで…一体何なんですか」
さっきの俺とキラのやりとりを一部始終見ていたカガリとラクスに『馬鹿』と言われてしまった。
「アスランは気付くのが遅すぎるんです。キラの一番ツライ時期にそばにいたのは貴方ではなく彼だったのですよ?」
「そうだよなぁ。あの頃のキラは毎日毎日泣いてて精神もかなり不安定で見ているこっちもキツかったもんな。イザークがそばにいなかったらどうなっていたことやら」
確かにそうだった『らしい』。『らしい』がついてしまうのは俺がそばにいてあげられなかったから。
俺はあの頃は自分のことで精一杯だったからキラの見舞いにもなかなか行けなかった。
どうして行ってあげられなかったのか、と今では思う。
自分以上に苦しかったはずのキラのところへ行って、そばにいてあげられたら何か今とは違っていたかもしれない。
「あの時の行動があなたと彼の差、なんでしょうね…きっと」
ラクスのその一言が心に重くのしかかった。……ひどく痛かった。
「俺とイザークの…差」
「アスラン、今日はごめんね」
「いや、いいんだよ。それより明日は暇か?」
「暇だよ。どうしたの?何か用事があるとか?」
「…明日一日、俺に付き合って欲しいんだ」
「キラ、おはよう」
「あ、アスラン。おはよう。…ごめんね、待った?」
そう言うキラは息を切らしていて、走ってきたようだった。
「いや、大丈夫だよ。…キラ、もしかして寝坊?」
「う……ごめん、本当に。でもね、いつもこうってわけじゃないんだよ。今日は…そう、特別! なんか緊張しちゃってさ」
一生懸命謝ってくるキラは顔を真っ赤にしていて、かなり早口だった。
そんなキラがとてつもなく可愛くて思わず笑がこぼれてしまった。
「あー!何笑ってるの、アスラン。ひどいなぁ…もう」
「ごめんごめん。つい」
「もうっ。…それで?今日はどうしたの?」
「あぁ、今日はちょっとキラに話したいことがあってさ」
「ふーん。そっか」
二人で歩きながら話をする。
目的地なんて特には無くて、ただブラブラと歩くだけ。最初は他愛の無い話をしていた。
――キラの口から『イザーク』という名が出るまでは。
「なぁ、キラ」
「んー?何?」
「キラにとってイザークってどんな存在なんだ?」
まずはイザークについて聞いてみた。
キラがイザークをどう思ってるかよくわかっていなかったから。
「え、イザーク?どんな存在…って言われてもなぁ。うーん…優しくて僕は好きだよ」
「好き…か」
「うん。でも僕、アスランも好きだよ」
……え?今キラは何て言った?
「俺も、好き?」
「うん。小さい頃から好きだよ。……あ、もしかしてアスランは僕のこと…嫌い?」
「俺もキラのこと好きだよ。俺がキラのこと嫌うなんてありえないよ」
「そっか。良かったー」
笑いながらそう言うキラ。
キラの『好き』っていうのはきっと、俺がキラのこと好きっていう『好き』とは違うんじゃないのだろうか?
今、聞いた感じだとそんな気がする。
…だから、確認しておかなければ。
「キラの『好き』ってどういう『好き』なんだ?」
「難しいこと言わないでよ。どういうも何も好きは好きだよ。もう…本当に何言ってるんだよ、アスランは」
「…俺はキラのこと『友達として好き』なだけじゃない」
きちんと言わないとキラは気付かないだろうから。
「え?」
「…こういう意味だよ」
そう言ってキラに近付く。
わけがわからないというような表情をしているキラの口唇に自分のもので触れる。
…ここまでやったらさすがにキラでもわかるだろう。
「俺の言う『好き』の意味、わかった?」
「う…うん。あ、でも……あのー、えと」
「キーラ?大丈夫か?」
どうやらパニックになりかけているらしい様子のキラ。
さっきまで俺が触れていたところを手で触りながら俺を見てぽつりと言った。
「昨日イザークにも同じことされた」と。
「え!?イザークに?」
「うん。『お前は鈍すぎるから』って言われて…キス、された」
イザークも同じことしていたのか…。ん?ちょっと待てよ。今の言いようだともしかして…。
「イザークがあんなことするなんて。僕、驚いちゃってさ」
少し笑いながら呟くキラ。
――やっぱり。まだそんなに二人の仲は進展してないんだな。
ということは、俺とイザークはきっと同じ立場だ。
二人ともスタートラインに立ったばかり。
「なぁ、キラ。嫌じゃなかった?」
「……うん。変かもしれないけど、二人にキスされても全然嫌じゃなかったんだ」
「じゃあ、俺は期待してもいいってことだな?」
「え…期待って何を?」
「キラが俺のこと本気で好きになってくれることを期待してもいいかってこと」
「本気でって…えーと、恋人みたいなこととか?」
「そう。覚えておいて?俺はこれ以上ないってほどキラのこと好きだから」
やっと今まで言えずにいたことが言えたからか、俺はすごくすっきりとした気分だった。
それとは逆にキラは困ったような表情でぼそぼそと何か呟いているようだった。
なんだか少し不安になって声をかけてみる。
「キ、キラ?どうしたんだ?」
「ねぇアスラン。僕が男ってこと忘れてないよね……?」
忘れてないよねって…。キラ、そんなの今更だろ。
「俺はキラだから好きなんだよ。男同士だからとか関係無いんだよ」
「…そう。そっか…じゃ、僕もそうなのかも」
悩みは解決したらしく、ニコニコと笑いながら言うキラ。
「あのね。僕、二人とも大好きなんだ」
「うん」
「だからね、今はまだどっちが好き?とか聞かれると困っちゃうんだけど……ごめんね、はっきりしなくて」
「そんなに焦らなくても大丈夫。…まぁ、そんなに長くは待てないかもしれないけどな」
俺は短気ではないけれど、そんなに気が長い方でもない。
キラのためなら少しくらい待ってみせるさ。だけど……
「俺、負ける気無いから。俺のことを今まで以上に好きにさせてみせるから、絶対に」
「うわー恥ずかしいこと普通に言うよね、アスランって。言われてるこっちが恥ずかしくなっちゃう」
「本当のことだから、別に恥ずかしくなんてないよ」
イザークになんて負けたくない。
キラとの付き合いは俺の方が長いし、俺の方がキラのことちゃんとわかってると思う。
――負けるはずがない。
……そう思っていたけれど、大事なのは今キラのために何が出来るかだと思う。
もっともっと俺のことを好きになってもらえるために何が出来るか。そういうことなんじゃないだろうか。
「僕さ、あの頃の記憶がほとんど無いんだ」
帰り道、沈黙を破ったのはキラのこの一言だった。
「あの頃?」
「うん。ベッドからずーっと出られなかった頃。…壊れちゃってた、時のこと」
「…あぁ。あの時はお前についていてあげられなくて…ごめん。ツライのは俺だけじゃなかったのに、気付かなくて」
許してくれなんて言わない。
どんな風に罵られてもいいと思っていた。
――それなのに、君は……
「…ツライのは僕だけじゃないって僕も気付けなかったんだからお互い様だよ、アスラン」
許してしまう。簡単に。
「イザーク…泣いたんだよ、僕の前で」
クスクスと笑いながらキラはゆっくりと伸びをしながら言う。
夕日をバックに振り向いたキラはどこか儚く見えた。
……でも、強さも確かに秘めていて。
「僕が一週間くらいずっと目を覚まさなくて、不安になっちゃったみたいでさ。あのイザークが涙を流しながら言ったんだよ。
『良かった。またその瞳に会えて、本当に良かった』って。
それ聞いたらさ、なんか…うーん、何とも言えない気持ちが僕の中ぐるぐるーってして、溢れ出しそうになったんだ」
「…うん」
「だから僕も言ったんだ。『僕もまた貴方の瞳に会えて嬉しいです』って。そしたらイザークってば泣きながら笑ってた。僕も気付いたら涙が溢れてて……」
ぽつりぽつりと何かを確かめるように話すキラは、俺の前を歩いているから表情はわからなかったけれど笑っている気がした。
「『明日も明後日もその先もずーっと会えますか?』って質問されたらアスランは何て答える?」
急に俺の方へ振り向いて質問してきたキラ。
俺は少し考えてから答えた。
「毎日会いに行くよって答えるかな」
「イザークはね『お前が会いに来い』って言ったんだ」
「……アイツらしい…というか、何というか…」
「ね。そんなこと言われたら寝てる場合じゃないなって思ってさ」
クスクス笑いながら言うキラの表情はとても嬉しそうだった。
「あのイザークの一言で、今の僕があるのかもしれないなぁ」
「あぁ。そうなんだろうな、きっと」
イザークのことが本当に好きだというのが、今の話を聞いてなんとなくわかった。
――多分キラは俺よりイザークの方が好きなんだろう。キラ自身は気付いていないようだけれど。
スタートラインに立ったばかりなのは俺だけだったんだ。
「アスランさ、何か気にしてるけど聞けないみたいだったから」
「え……?」
「あの頃のこと。今まで言う機会が無くてなかなか言えなかったんだ。さっきも言ったけどアスランが気に病むようなことじゃないんだよ?」
「いや、でもそれは…「僕がいいって言ってるんだからいいの!」
俺が言おうとしたことを遮ってキラは言う。
「わかった?」
「…あぁ」
「じゃ、この話はもうおしまい。……僕、楽しみにしてるんだから」
それだけ言うとキラは前を向いて歩き出してしまった。
そして突っ立ってる俺と少し離れてから大きな声で言う。
「でも簡単には好きになったりするつもりなんてないから。君にも、イザークにもね!」
言い終わると同時にキラは走り出す。俺もキラを追いかけて走る。
そして、キラと同じように大声で言う。
「誰よりも俺が好きだって言わせてみせるから、必ずな!覚悟してろよ、キラ」
これからが勝負だ。
勝負は最後まで何が起きるかわからない。
何が起きても、必ず俺はこの勝負に勝ってみせる。
-end.
後書き。
携帯サイトでリク受けてから1ヶ月。すっごくお待たせしちゃいましたね…
イザキラ←アスランになってないような気がしますが、微妙にイザキラ←アスランなんです。
題名も微妙……
2005/ 2/ 1