silent night



「先に寝てろ」
そう言われたから一応ベッドにもぐりこんだけれど、なかなか眠れない。
なんだか落ち着かなくてベッドから出て部屋唯一の窓へ近付く。

イザークの家に来るのは初めてではないけれど、この家は広すぎるからイザークといっしょでないかぎりこの部屋からは出ないようにしている。
……迷子になってしまって大変だったことがあるから。

しばらくの間、ぼーっとしながら外を眺めていた。
せっかくいっしょの休みがとれたからイザークと過ごそうと思ったのに、そんな僕の思いをあざ笑うかのようにイザークに通信が入った。
どうやら急な話らしく、どうしてもイザークが行かなくてはいけないらしい。
「行かないで」なんて女々しいことを言わなかった自分は少し大人になれたような気がする。
いつもいつもイザークやディアッカに子供扱いされてしまう自分。
こんな些細なことで大人になったような気がしている時点で子供なのかもしれない、と少し悲しくなる。

「はぁ…」
さっきからため息ばかり出る。というかため息しか出ない。
寝なければと思うけれど、眠れないのだからどうしようもない。
……イザークといっしょじゃないと眠れない、なんて。いつからこんなに自分は弱くなってしまったのだろうか。

優しいイザーク。
でも、アスランとは違う優しさを持っていると思う。
アスランは過保護すぎるんじゃないかと思うくらい僕に優しかった。
イザークはそういう優しさではなくて。……言葉で表現するのは難しいけれど、とにかくアスランとは違う優しさを僕にくれる。
僕がアスランとカガリから逃げるようにオーブを飛び出して、突然プラントへ来た時も文句を言いながらも優しく迎えてくれた。
その時のことを思い出しながらクスクスと笑う。
「…あ」
窓から眺めていた先に、よく知っている銀が見えた。
「マズイ…起きてるのバレたらまた怒られちゃう」
急いでベッドにもぐりこむ。
前にも似たようなことがあって、その時は延々と説教された苦い思い出がある。

少ししてからドアの開く音がした。
ドキドキと胸は高鳴る。
それが緊張からくるものなのか、待ち望んだ胸の高鳴りなのか。どっちなのかよくはわからなかったけれど。
だんだんとベッドに近付いてくる気配。
ベッドが軋んだから多分イザークがベッドに腰掛けているんだろうな、なんて思いながらも僕は寝たふりを続ける。
……視線を感じるから落ち着かない。
しばらく何もしないでいたらしいイザークは、急に僕の頬にキスをしてきた。
頬に感じていたものが離れると同時にため息が聞こえた。
「…キラ。起きているんだろう?」
「……」
僕は黙り込んで寝たふりをまだ続ける。もうバレてしまっているけど、怒られるのは嫌だから。
寝たふりを続ける僕に呆れたのか、またため息をつくイザーク。

イザークは突然僕の手を握ってきた。

「やっぱり……。今まで起きていたんだろう?…ここも、ここも冷たくなってる」
そう言いながらイザークはゆっくりと僕の指1本ずつにキスを落としていく。
それがくすぐったくて、我慢できなくてつい声を出してしまった。
「…くすぐったいよ、イザーク」
「お前が約束を守らないからだ。…どうして起きていた?」
「寝る気になれなかったから」
これは嘘じゃない本当のこと。
だって、寝る気になれなかった理由もあるけど、そこまで言ってしまうのは悔しいような気がしたから。
「それだけ…ではないだろう?俺がいなくて寂しかったのか?キラ」
「……寂しかったって言ったほうが嬉しい?」
「素直なキラのほうが俺は好きだが?」
「…じゃあ、言う。イザークがいなくてすごく寂しかったよ」
言いながら僕はイザークに抱きつく。
きっと僕は今いい笑顔をしていると思う。だってイザークが綺麗な笑顔を見せてくれているから。


「ただいま、キラ」
「うん。おかえり、イザーク」


優しく抱きしめてくれる腕に急に眠気が襲ってきた。
やっぱり僕はイザークがこうやって抱きしめていてくれるとすごく安らかに眠れる気がするんだろうなぁ。

「キラ。お前、休みはいつまでだ?」
「えーと……あと2、3日はある…かな」
「そうか。今日の分はしっかり埋め合わせするから楽しみにしてろ」
「ほんと?……たのし…みだ……な……」
襲ってくる眠気に勝てなくて、そこで僕の意識は途切れた。


-end.



後書き。
イザキラ書くのは久しぶりな気がします。一応このssもキラinジュール隊な設定です。
イザークは埋め合わせに何をするんですかね?謎です。




2005/ 5/14