『好き』より好き



「ねぇ、イザーク」
「何だ?」
「僕さ、イザークが好きなんだけど、イザークは?」
「…は?」
「だーかーらー僕のこと好きかって聞いてるの!」

何言ってるんだ、コイツは。

「好きじゃなかったら、こんなにお前のことかまったりしない」
「えーそうなのー?ちょっとまだ信じられないよ、僕」
「俺がここまでしてるのにか!?」

俺の「ここまで」が「どこまで」か、というと…

今、キラの髪の毛を乾かしてやってるのは俺だ。
放っておくとそのまま寝ようとする。…そのまま寝て、運が悪いと風邪をひいたりする。
それなのに、自分では絶対に乾かそうとはしない。
風邪をひいてツライのはキラ自身なのに、だ。

「だってイザークってば頼んでもいないのに、勝手に始めちゃうじゃない」
「俺がやらないとお前はそのままで寝ようとするだろう」
「うん。だって別にしなくても困らないし」
「俺が困るんだ。大体、風邪ひいたらお前だって困るだろう」
「うーん…まぁ。それは確かにそうだね」
「だったらもう少しおとなしくしてろ」
「はいはい。わかりましたよー」
さっきまで言うことを聞かずに逃げようとしていたキラが急におとなしくなった。
後ろから抱きしめておとなしくなるまで待っていた俺の判断は正解だったらしい。

キラはこうしてやると安心するのか、だんだんと眠くなってくるらしい。
今がチャンスと髪の毛を乾かすのを再開する。

「イザークは愛が足りなーい」
「これでも精一杯の愛を与えているつもりなんだが」
「あははは。愛だってー。イザークが愛とか言ってるー」
…何なんだ、一体。自分から言い出したくせに。
「ねぇねぇ、イザーク」
「…何だ?」
「大好きー」
言うと同時にキラは体を反転させて、俺の首に腕を巻きつかせて抱きついてきた。
「お前、何か変だぞ。……もしかして酔ってるのか?」
「酔ってるー?うーん。そうかもしれないなー」
キラの顔をよくよく見たら少し赤くなっていて、若干酒の匂いがしていた。
「さっきね、ディアッカに少し飲ませて貰ったんだ」
「何をだ?」
「わかんない。でもおいしかったなぁ、あれ。イザーク、大好きだよー」
えへへと笑いながら言うキラはとても機嫌が良さそうだった。

――確実に酔ってるな、これは。

後でディアッカにきつく言っておかなければ。
キラに酒を与えるな、と。
少し飲んだだけでもすぐに酔ってしまうほどキラは酒に弱い。

こんな状態のキラを放っておくのはいろいろな意味で危険だ。
誰にでもニコニコと無防備に笑いかけるキラ。警戒心なんて皆無だ。…出来れば、というか絶対人の目に付かないようにしたい。
思わぬところに思わぬ敵を作ってしまう可能性がある。
……前に一度だけひどく不愉快な思いをしたことがある。
それ以来、俺が見ている範囲ではキラには酒を飲ませないようにしている。

「キラ、わかったからとりあえず離れてくれ。このままじゃ髪の毛乾かせないだろう」
「じゃあ、好きって言って?」
軽く首をかしげながら言うキラに思わずため息が出る。
「…それはわざとか?」
「え、何が?…もう、いいから早く言ってよー」
無意識にこういうことを普通にするから怖いんだ。
「……お前、今日はもうこの部屋から一歩も出るなよ」
「さっきから何言ってるの?用も無いのにここから出るわけないでしょー。変なイザーク」

…なんかよくわからなくなってきた。、とりあえず早く髪の毛を乾かして寝させてしまおう。
「キラ、いい加減言うことを聞いてくれ」
「好きって言ってくれたら離れる」
「好き。これでいいか?」
「何、そのどうでもいい的な言い方。…まぁ、約束は約束だからね」
抱きついていた体は離れて元の体勢に戻る。
でも、どこか体の一部は必ずしっかりと密着している。キラはこうやって、どこでもいいけどくっついてるのが好きらしい。
「はい。これでいい?」
「あと少しで終わるから少しおとなしくしてろよ」
「うん…」
眠気の方が勝ってきたのか、あれほど騒いでいたのが嘘みたいに静かになる。


「僕はちゃんと好きって言えるから」
「俺も『好き』と言ったはずだが」
「さっきの『好き』はすごく適当だったもん。バレバレですから」

「ちゃんと言ってやろうか?」
「…言ってくれるの?」
「あぁ」

静かな部屋に二人の話し声とドライヤーの音だけ。少し耳障りな機械音はもう消える。

「聞きたい な」

お互いの呼吸している音しかしてないこの部屋でひとつ、囁いてやる。


愛してる


『好き』より 少し 長くて、
『好き』より もっと好きな 意味の、
俺が キラに 抱いている 感情の中で 一番大きな その言葉を。

「ありがと。……僕も、愛してる」
それだけ言うと俺の胸の中へ倒れてくるその小さな体。…どうやら眠ってしまったらしい。
そんなキラを抱き上げてベッドへ連れて行く。


幸せそうに眠るその姿に、幸せを感じる。


安らかなキラの寝顔を見て、自然と笑顔になる。
そんなキラの額に軽く口づけて俺の一日は終わる。

「おやすみ、キラ」


-end.



後書き。
甘めイザキラ。題名がなかなか決まらなくて最初は『とりあえずイザキラ』なんてファイル名でした。




2005/ 1/28