チカラ
世界を変えるために。
……そんな大きなことが出来なかったとしても。
自分の運命を塗り替えるために。
ちっぽけな僕にもそれくらいは出来るかもしれないから。
今はただ……力が、欲しい。
――でも本当の理由は……?
「キラ…!?どうしてお前がここにいるんだ!?」
アスランは僕を見た途端、そう言った。…かつて彼が着ていた紅服を着た僕に。
「どうしてって…ここが僕の居場所だからだよ」
「お前の居場所はこんなところじゃない!!お前は俺たちとオーブにいればいいんだ!」
そう言い切るアスラン。
確かに、君たちと居たら僕はきっと傷つくことなんて無いんだろう。
君たちは僕をすべてのものから守ってくれるだろうから。
……でも、僕はそんなの嫌なんだ。
穏やかな生活も最初の頃はそれでいいんだと思っていた。
ラクスと子供たちとマルキオさんと母さんとの生活。アスランもカガリも毎日は無理だけどよく会いに来てくれていた。
アスランはいつでも僕を心配してくれていた。昔から変わらないそんな彼の姿がなんだか嬉しかった。
――まるであの幸せだった、幼い頃に戻ったみたいで。
だからと言って今が幸せじゃないというわけでもない。
だけど、急に不安が襲ってくる夜が何度もあった。
怖くて逃げ出したくなって、家から飛び出したことも数え切れないくらいある。
家から少し離れた静かな砂浜で海と月を眺めるたびに、いつも同じことを思っていた。
『どうしてこんなに僕は弱いのだろう』と。
毎日のように悪夢を恐れながら眠る。
必死にもがいてみたところで何も変わらない。
うなされていた、と心配されてしまうことも……ひどく痛い。
どうすればいい?
このままでいいはずなんてない。
このままでは僕は弱り続ける一方だ。
だから思った。
僕を変えてしまおう、と。
そう思った夜に、あの優しくて居心地の良い家から僕は姿を消した。
僕はとりあえずプラントへ行った。
何も考えずに飛び出してきてしまったから、どうしようかと考えていたところに見たことのある人が目に入った。
すぐに走ってその人を追いかける。
「あのっ…待ってくださいっ!」
精一杯の大きな声で叫んだ。
僕の声が聞こえたらしく、振り向く長い黒髪の人。
僕を見た瞬間、少しだけ目を見開いていたような気がした。
「……どうか、しましたか?」
「議長!危ないですから…」
「かまわん。彼は私に危害を加えるようには見えない。……何か御用ですか?キラ・ヒビキ」
ボディーガードと思われる人達を制して、微笑みながら静かにそう言った。
「……僕に、力をください」
たったそれだけしか言えなかった。いや、頭の中が真っ白でそれだけしか言えなかったんだ。
僕の本当の名前を知っている人なんて、もういないと思っていたから。
この人なら……と思った。
力が欲しい?
――確かにそれもある。でもきっと、それ以外にも理由はある。
アスランとカガリを見ているのが辛くなってしまった、というのも理由のひとつなのかもしれない。
そんな理由でここに来たと言ったら笑われてしまうかもしれないと思ったけれど、意外とあの人は笑わずに聞いてくれた。
そして僕の頭を撫でた。
「そうか。……つらかったな」と言いながら。
その時、僕の心の奥で何かが弾けたような音がした。
感情が抑えられなくて、みっともなく小さな子供のように大声を出して泣いてしまった僕を優しく抱きしめてくれた人。
その人のおかげで僕は変われたような気がする。それが小さな変化だとしても、僕にとってはとても大切なこと。
僕はまた誰かを愛することが出来るかもしれないと思った。
――銀髪のあの人に愛の言葉を囁かれるのは、彼の家でお世話になり始めてすぐのことだった。
「僕の居場所はここだよ、アスラン。誰が何と言おうと僕の居場所はここだけだから。……それに、僕はもう君の知ってる『弱いキラ』じゃないんだ」
-end.
後書き。
キラinジュール隊になるまでの話。
キラはギルさんにIDとかいろいろもらった後、ジュール隊に配属されます。キラの希望で。
ギルさんはキラが大切で、キラにすっごーーく甘いです。可愛がってます(笑)
前はアスランが好きだったけど、今のキラはイザーク一筋です。(キラinジュール隊設定では)
そしてイザークから告白したということになってます。イザークが告白する前から相思相愛だったんですけどね。
2005/ 5/20